彼が帰ってこないことがこんなにも怖いなんて思ってもいなかった。……ううん。きっと小太郎は私よりもずっと辛かったはずだ。
いつ目覚めるか分からず、起きたと思ったら記憶を失っていた私に、「事故の恐怖を思い出させないように」と自分を遠ざけた。予知夢だって、自分の大切なものと引き換えに仲介人と取引までしてくれた。
私はいつもいつも、小太郎に助けてもらってばかりだ。それなのに――
「私は、何をしていたんだろう」
思い出したいと身勝手に近付いて、彼を傷つけてたんじゃないの?
気付かないうちに彼を追い詰めていたんじゃないの?
そんな彼に、どんな顔をして会えばいい?
彼を守りたい――その一心で動いた結果が、更に傷つけることになるなんて思いもしなかった。
私はただ、小太郎に生きていてほしかった。いつも他の人のことばかり考えて空気みたいに溶けこむ彼を、不器用ながらも全部を受け止めてくれる彼を失いたくなかった。
それがたとえ、私が死ぬことになっても、小太郎との記憶を一生失うことになっても、きっと私は何度も小太郎に声をかけた。
明日もその先も、ずっと小太郎の傍にいたいって、思ったから。
「……ごめん。小太郎、ごめんね……っ!」
絞り出した声はいつになく震えていて、自分でも聞き取れないほど消えかかっていた。ブランコの鎖にしがみつくように、そのまま地面に座り込む。
私、まだ小太郎に言えてないことが沢山あるんだよ。
強引に学校に連れて行った時、保健室の先生に「無理に連れてこられた小太郎くんの気持ち、よく考えたの?」って言われた時、何も考えてなかったことに気付いた。小太郎にとっては迷惑だったかもしれない。
中学の夏休みにアイスを買いに行かせたのだって、私が提案しなかったら怪我をして帰ってくることはなかった。予知夢があったのに、たかが夢だと決めつけてしまった。
それでも小太郎は一度も私を責めたことはなかった。それ以上に何度も助けてくれた。
受験の合否発表の後、励ましてくれたからお母さんにありがとうって伝えられた。事故の時の恐怖が襲ってこないように自分から距離を取ったのだって、不器用だけど小太郎の優しさだ。