「どこ……? 小太郎、どこにいるの?」

 一周するのに一分もかからない敷地内を、小太郎の名前を呼びかけながら探す。それでも彼らしい姿はどこにもなく、返事は帰ってこなかった。本当はここじゃなかったのかもと不安が過ぎる。

 もし小太郎だけが知っている思い出の場所が此処じゃなければ元も子もない。でも仲介人は確かに「君が魔法にかけられた場所」だと言った。

 彼の言う魔法が「食べると頬が落ちてしまうバニラアイス」を指しているとしたら、大胆に転んで大泣きした私に手を差し伸べて、魔法を教えてくれたこの場所以外考えられなかった。

 まだ戻ってきていないだけかもしれない。いくら近道を知り尽くした小太郎だって、迷子になっていることだって充分ありえる。――そう自分に言い聞かせて、公園の外も見回す。街路灯が揺れるだけで、小太郎の姿は見えなかった。

「……どうしよう」

 動いていないと落ち着かない。やっぱり別の場所にいるのかも。でも他に思い出の場所があるなら、そこも探すべき?

 やみくもに探そうとする自分の考えに、一度大きく深呼吸をした。このまま不安に押しつぶされてはダメだ。そもそも、小太郎がいつ帰ってくるのかわからない。仲介人の言葉に乗せられて勢いで出てきてしまったけど、明日ひょこっと学校に顔を出す可能性だってあるのだ。

 公園に目を向けると、ブランコが風で揺れているのが見えて、ふと脳裏にあの頃の記憶がフィルムのように流れてきた。

 そうだ、あの時。ラムネアイスを受け取ってはしゃいでいた私は、誰も使っていなかったブランコに座って食べようとしていたんだ。その途中で転んでアイスは砂まみれ、ブランコも知らない子が遊び始めたんだっけ。だから大泣きしたんだ。周りの目があって恥ずかしかったのももちろんあるだろうけど、一番はそっちだったと思う。

 何となくブランコに近寄ると、つい最近新しいものになったのか、古い傷も錆びてメッキが剥げているところもなかった。幼児や児童が対象だから、私が座るには鎖が長くて低すぎた。

「……会いたいなぁ」

 小さく呟いた途端、胸の奥がぎゅうと握り潰されそうになる。
 あの時、小太郎が手を差し伸べてくれなかったら、私はこんなに未練がましくならなかったのだろうか。