さすが幼なじみ、と仲介人は楽しそうに茶化す。やっぱり電話がかかってきたときには、すでにあの場所に行ってたんだ。

「そう、彼は【夢と夢の境界線】にいるよ」
「じゃあ……」
「言っただろう? おまけを含めてそれだけにしたって。彼には、君を繋げたモノをボクに渡すことと、取引を成功させるための時間を貰ったんだ」
「……えっと」

 頭が追いつかない。困惑する私を横目に、仲介人は意気揚々と語り出す。

「ボクは今までいろんな人間の夢を渡り歩いてきた。人間じゃないボクでも羨むような、楽しそうな夢を微笑ましく見てきたんだ。だから悪夢なんて稀にしか見ることができなかったんだよ。でもここ近年で甘美な悪夢ばかり見る人間が増えてきた。……それって、いかに人がストレスや不安に煽られ、苦痛に耐え、すべてを諦めて真っ黒に飲み込まれる世界で生きているってことなんだよ。ボクにとってはご褒美でも、人間にとっては全くの別物。……だから、これを機会に彼からいろいろ聞いてみたくなったんだ。成功率を上げるために時間を貰ったのも、半分はボクのエゴさ」

「……そんな良心的な感じだったっけ?」

 思わずぽろっと出てしまった言葉に、仲介人はムッと口元をしかめた。

 初めて会った時の仲介人は、人を困らせて楽しもうとしているようにしか見えなくて、存在自体に興味なさそうだった。これほどまでに仲介人の心を動かしたのは、きっと小太郎だ。彼が仲介人に何を話し、どんな行動をして信頼を得たのかは私にはわからない。でも一つだけ確実に言えるのは、小太郎が私やさっちゃんたちを信じてくれたことだ。記憶が戻ったときに自分がいなくても、さっちゃんや佐山くんたちが混乱する私を支えてくれると考えたらなら、全部を賭けるなんて大胆なことを仕掛けるはずがない。

「君たちのせいだよ。君たちがボクの興味を唆したんだ。……全く、人間相手にこんなことしている場合じゃないだけどなぁ」

 仲介人は一度言葉を切ると、立ち上がって窓の方を向いた。レースカーテンの向こうはすでに真っ黒な空が広がっており、街路灯や近くの家の灯りがぼんやりと見える。

「ところで、彼は見つかったかい?」
「……ううん。学校近辺は探したけど見つからなかった。あなたが小太郎を攫ったのが自然公園なら、戻ってくるのだってあの場所だと思ったんだけど……」
「おや、誰が同じところに戻ってくると言ったかな? 着地点はランダムなんだ。君がベッドの上で完結したのは運が良かったからだ。……そうだな、確率で高いのは思い出の場所かな」
「思い出の、場所……」
「その様子だと、まだ探していない場所があるんじゃないの?」
「…………」
「迎えに行ってあげたら? 君が魔法をかけられた場所に」