「君、予知夢にずっと苦しんでいただろう?」

 仲介人に指摘されて、急に心臓が握られたような気がした。そうだった、予知夢のことを話したのはさっちゃんだけじゃない。私の困惑する表情を見て、仲介人はニヤリと口元を歪ませた。

「実はボク、夢を食べるんだ。特に悪夢が大好物でね、不幸の予知夢はボクにとって御馳走さ。彼はそれを食べろと言ってきたんだ。だからこの先、君は二度と予知夢を見ることはない。僕が一生分の予知夢を貰い受けてしまったからね」

 いつも誰かが傷つく夢に絶望して、眠れない日々を過ごしてきた。今日は見てないけど明日は見るかもしれない――その不安で何度押しつぶされてきたことか。それなのに、こんなあっさりと解放されたと告げられても実感が湧かない。仲介人が「もっと喜んでくれたっていいんじゃない?」と口を尖らせて拗ねるけど、私にはそんな余裕はなかった。

「……その予知夢と引き換えに、小太郎は何を渡したの?」

 この正体不明の人物がタダで動くとは到底思えない。取引したというのだから、小太郎にどんな条件を叩きつけたのか。私の問いかけに、仲介人は言う。

「彼と君を繋いだ大切なモノ。それだけさ」
「それだけって……」
「だってボクが受け取ったのはご褒美みたいなものだったからね。申し分なかったから、おまけも含めてそれだけにしたんだよ」
「だったら、どうして小太郎は帰ってこないの? 私に荷物の回収を頼んだのだって、すぐ帰れない場所にいるからでしょ? たとえば……君がいた、世界とか」
「……なんだ、電話した時にどこにいるか頑なに答えなかったのに、わかってたんだね」