「様子を見に来たよ。記憶が戻ってよかったじゃないか。……そんな邪見にしないでおくれよ。ボクは君との約束を守ったでしょ」
「……何言ってるの? 私は事故の後の記憶どころか、小太郎のことを全部思い出したんだよ。取引した時に一生思い出すことはできないって言ってたよね?」

 私がそう言うと、仲介人は口をへの字にしてそっぽを向く。まるで拗ねているようだ。とても不服そうな顔をして彼は渋々口を開いた。

「ボクだって想定外だったんだよ。まさか彼が取引を仕掛けてくるなんてね」
「彼って……小太郎?」
「そうさ。彼はボクのちょっとしたミスを指摘した上で、自分が渡せるものすべてをかけて取引すると言い出したんだ。内容が魅力的だったからつい引き受けちゃったけど……それにはまず、君との取引を解消しなければならなかった。だから君に記憶を返したのさ」
「なにそれ……自分のミスをなかったことにするために、私の取引を破棄したってこと!?」
「悪い言い方するなぁ。否定できないのが痛いね。でも安心して。君にとっても有益な取引だと思うよ」

 私にとっても?

 初めて会った時から、仲介人の話は胡散臭さを感じていた。顔が見えないからか、三日月のように笑う口元からなのか。一方的な話をされるたびに嫌な違和感が募っていく。今の私には、仲介人の言葉すべてを疑心暗鬼に捉えてしまっていた。

 すると仲介人はベッドから立ち上がると、私の前に来て屈んだ。