さっちゃんたちに見送られ、私は小太郎の鞄を抱えたまま自宅に入った。リビングに顔を出すと、お母さんが慌てた様子で駆け寄ってくる。

「凛花、大丈夫だった!? あなたの学校の近くで事故があったって……」

 手に握られたスマートフォンには、地域ニュースの速報が表示されていた。学校近辺で何かあった時の為に通知が来るようになっているようだ。心配性で過保護なお母さんらしい。

「大丈夫だよ。その道は通らなかったから」
「そう……? 随分顔色が悪いように見えるけど……あら、それって」

 お母さんの視線が私の抱える鞄に移る。見覚えがあったのか、途端に眉をひそめた。

「小太郎のよね? どうしてあなたがこれを持っているの?」
「これはその……頼まれて。昨日からおばさんたちがいないからって」
「はぁ? じゃあ小太郎は一緒についていったの? あなたに荷物を持たせて? ……信じられない。凛花にこんなことを頼むなんて! そもそも関わるなって言ったのに、なんなのあの子は!」

 次から次へと出てくる言葉はすべて小太郎への嫌味ばかり。早く自分の部屋に戻りたいのに、一人にしてほしいのに、お母さんは心底呆れた、がっかりした顔をして私を見る。

「何度も言ったでしょう。彼はね、あなたを突き飛ばしたの。怖い目に遭わせたのは小太郎なのよ。そんな人と関わるなといつも言っているのに、どうしてお母さんの言うことを聞いてくれないの?」
「それは……」
「凛花が記憶を失くしたのを良いことに、悪いことでも企んでいるんだわ。ああ、なんて恐ろしい! やっぱり転校するべきだったのよ!」

 目の前にいるのが、本当に母親なのか疑ってしまう。