私がそう問いかけると、さっちゃんたちがこちらを見た。「溝口なの?」「おい、いまどこだよ!?」と口々に訊く中、小太郎はやけに冷静な様子で続ける。
『よかった、やっと繋がった。青山たちと一緒?』
「そうだけど……小太郎、今どこにいるの?」
『訳あって遠出してる』
「鞄もスマホも置いたまま? ベンチに置きっぱなしって不用心すぎるよ」
会話が聞こえるようにスピーカーに切り替える。さっちゃんたちの声も聴こえたのか、電話の向こうで『ああ、外にいるのか。ちょうどよかった』とどこか安心した声がした。
「……どういうこと?」
『そのままだよ。悪いんだけどさ、俺の荷物をちょっと預かっててくれない? 昨日から両親だけで里帰りしてて家に誰もいないから回収できなくて困ってたんだ』
「預かるって、いつ帰ってくるの?」
『なるべく早く』
「だからいつ? ちゃんと帰ってくるよね?」
強めの口調で問うと、途端に黙り込んでしまった。説明に困っているのか、それとも答えられないのか。すると電話越しの彼は小さく笑った。
「なにがおかしいの? 変なこと言った?」
『いや。……記憶、戻ったんだな。よかった』
「……なんで」
誰も小太郎には連絡がつかなかった。教室にいなかった森田くんと千佳はまだしも、さっちゃんと佐山くんにも記憶が戻ったことをちゃんと話せていない。誰も知らないはずなのに、どうして小太郎が知っているの?
「小太郎、教えて。今どこにいるの?」
電話越しから聞こえる外の音に集中して耳をすましても、引っ掻くようなノイズが遮ってよく聞き取れない。それが外でも建物の中でもない、仲介人がいるあの殺風景な世界だとしたら。一度だけ偶然辿り着いたその場所に行くには困難だと、仲介人は悪戯をしでかした子供のような口調で笑って教えてくれた。もし小太郎がそこにいるのなら、仲介人の手助けなしでは行けない場所だ。
「どうして、どうして教えてくれないの? 知られたくないの?」
『…………』
「答えて……お願い」
回線が悪いのか、意図的に黙っているのか。電話越しに聞こえるノイズの中で、はっきりと言った。
『あの日、ハズレのアイスを食べたときに思ったんだ。バニラにしておけばよかったって』
「……何の、話?」
『でも本当は、バニラよりラムネが好きだったんだよ』