彼女の手に触れるのは小学生以来だった。あの頃は学校に無理やり連れて行こうとしていた凛花に半ば強引に手を繋いでいたっけ。

　当時百マス計算ができなくて泣いていた凛花は、ペンだこがくっきりと出てくるまで鉛筆を握っていた。頑張ったかいがあってか、次のテストで満点をもらうと授業が終わってすぐ自慢しに来た。

　今も右の中指にはペンだこが残っている。以前、友達との会話で、近くの大学を目指していると話していた。頑張ってきた証拠がある。それなのにどうしてこのタイミングで事故に遭ってしまったのか。目を覚まさなければ、そのペンだこも無駄になってしまうというのに。

　規則的に脈を打つ彼女の手をぎゅっと握る。握り返してくれるかもしれないと思った。それでも閉じられた目が開くことはない。
　諦めて手を外した途端、微かに彼女の指が動いたように見えた。

「凛花……？」

　問いかけるが反応はない。動いたのはそれきりで、彼女の両親が戻ってくる直前まで、ずっと彼女の手を握っていた。反応はなかった。