一人で帰ることが多く、最短距離の抜け道を独自に見つけるほど辺りを散策している彼なら、急ぎの用事がないときはこの道を使っていても不思議じゃない。
ふと、教室で思い出した直後に見えたあの光景が浮かんだ。信号機、横断歩道――見えたものすべてが、あの場所にある。
「……嫌だ」
「凛花? ――待って、凛花!」
さっちゃんの声を遮って、私はスマートフォンを片手に走り出した。公園を出て歩道に沿って走る。夕日のオレンジが照らし、私の影は長く伸びる。真っ黒な影が軽快に走る姿が嫌でも目に付いた。泣きすぎて腫れた目元も、汗で頬に引っ付いた髪も、足を速めるたびに苦しくなる息も全部、思い出す直前に見えたものすべてだ。
また同じ夢の通りになるのは嫌だ。小太郎を二度も失うのは嫌だ!
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
「……っ、やだよ、間に合って……!」
走りながら祈るように呟く。ツンと鼻の先が痛くなったのは風が冷たいからじゃない。自然に溢れた涙を拭う時間さえ惜しい。すれ違う通行人はかなり酷い顔をした私に驚いて二度見した。それでも気にせず、そのまま走り続ける。一瞬でも速度を落とせば間に合わないと思った。
誰も傷つかないで、そこに誰もいないで、何も起きないで!
ようやく事故現場が見えてくると、突然がくん、と膝が抜けてその場に立ち崩れた。