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 学校から少しだけ離れた自然公園は、昼間には親子が一緒に遊べる遊具や走りやすく舗装されたランニングコースがある。周りがスギの木ばかりだから花粉症を持っている人には辛いが、生い茂る草木のおかげで一休みできる場所が多い。

 公園の入口で佐山くんと合流した私たちは、大きな木の下にポツンと構えているベンチに向かった。小太郎の鞄はその端に置かれていたらしい。外ポケットに雑に突っ込まれたスマートフォンには、私がかけた十数件の着信履歴が残っている。

「電話に出なかったのは、ここにあったからってことよね。携帯しないなんて、スマホの意味がないじゃない」
「今、森田と牧野ちゃんが遊具で遊んでる親子に、溝口を見ていないか聞いてくれてるから戻ってきたら範囲広げて探そうぜ」
「千佳もいるの?」
「同じ塾だからな。溝口のピンチだって話をしたら、古賀ちゃんのピンチかもしれないって一緒に来てくれたんだよ」
「そう……それで、溝口は?」
「この近辺探したけど全然見つからねぇ」
「小太郎……」

 ふと下を見ると、ベンチの下の土が一部分だけ色が変わっていることに気付いた。ソーダのような甘ったるい匂いにつられて、蟻が行ったり来たりしている。どうやら教室で見えた、私がラムネアイスを落としたのはこの場所だろう。

 ならば補習が始まる前に学校を出た小太郎と、わざわざコンビニで二人分のアイスを買って追いかけてきた私は、補習が始まった直後にはここにいたことになる。

「佐山くん、私っていつから今日の補習に参加してたかわかる?」
「え? えーっと……わかんねぇ。気付いたらいたって感じ」

 私の後ろの席に座っていた佐山くんが、懸命に思い出しながらも苦い顔をする。もしかしたら仲介人がこっそり佐山くんを目隠しでもしていたのかもしれない。

 仲介人と出会ったあの不思議な場所は時間の流れが大きく変動するから、体感ではわからない。おそらくここで私と小太郎が話していて突然、仲介人があの場所へ連れて行った。そして私だけが何らかの理由で学校の補習にいるように戻されたと考えるべきだろう。