遠くで聞こえたその声は、今まで聞いたことのないほどどこか切羽詰まっているようで、思わず目を向けてしまった。

 仲介人の胸倉を掴んだ小太郎は怒っているようで、今にも泣きそうな顔をしている。そんな顔もできるんだと少し感心した。何事もしれっと流す、真剣に何かと向き合おうとしなかった幼なじみが、一体何に惹かれたのか。私では引き出せなかった彼の様々な表情をすぐ近くで見られる誰かが羨ましい。嬉しいはずなのに、嫉妬してしまう。

 すると、小太郎と目が合うと、ふっと微笑んだ。

 ……その笑顔、好きだったなぁ。

 少しでも私に気付いてくれたことが嬉しくて、それだけで胸がいっぱいになる。鼻の奥がツンとするのを感じながら笑って返す。酷い顔かもしれないけど、私は笑えているだろうか。

「……っ、ありがとう」

 もう二度と会えない彼をしっかりとこの目に焼き付けよう。

 いつの間にか背比べもできないほど追い越された身長も、大人っぽくなった顔つきも、まだあどけなさが残るその笑顔も全部。

 沢山の思い出と一緒に伝えられなかったこの想いも、アイスのようにゆっくり溶けて消えてしまえ。

「小太郎、大好きだよ」

 そっと目を閉じる。視界の片隅で仲介人の口元が歪んだのが見えたけど、気付かないフリをした。

 ――暗転。