仲介人が提示した条件は、私が大切にしている人――小太郎との今までの記憶を渡すこと。これから一生小太郎のことを思い出せなくなるだけでなく、好きや大切といった、彼に対して抱いていた感情も失ってしまうらしい。

 その取引に私は応じた。先回りをしても事故が起こってしまうのなら、予知夢を見るだけの私にできることはないと思ったからだ。

 ただ一つ心配だったのは、小太郎が自分を責めてしまうことだった。
 仲介人が提案した内容は私と小太郎の位置を入れ替えること――つまり、彼は必然的に私が事故に遭う瞬間を目の当たりにするのだ。必ず起きる予知夢である前提なら、彼に証人となってもらうしかないのだと、仲介人は言う。私が死ぬのだから、私では意味がないらしい。

 責任感の強い彼のことだから、ずっと私を見てきてくれた彼のことだから、きっと自分を責めてしまうだろう。

 だから一つだけ。仲介人におまけをつけてもらうことにした。

 事故に遭う当日、本当はさっちゃんと帰る予定だったのを小太郎と一緒に帰るように仕向けてもらったのだ。
 久しぶりに一緒に帰る道は、五月にも関わらず暑くって、我慢ならずにコンビニに向かう。私が食べるはずだったフルーツミックスのアイスを選んだ彼が、苦い顔をして食べているのを見て笑ってしまった。

 最後になるであろうバニラアイスを口に運ぶ。甘くて優しい、安定の美味しさに思わず頬が緩んだ。

 そして遊園地に行く話をする。私が行きたそうにすれば、きっと小太郎は私の代わりに行ってくれると思った。何より、あまり友達と遊ばない小太郎に佐山くんや森田くんの声を聞いてほしい。「一緒に遊ぼう」って誘われることが、どれだけ嬉しいことか。内気な小太郎なら、ちょっと強引な二人の方がいい。案の定保留にされたけど、きっと来てくれる。

「私も一緒に行きたかったなぁ」

 そう口にして、次の言葉をぐっと飲み込んだ。

 ああ、この時間がずっと続いてほしかった。
 明日も君の隣にいたかった。

 ――ごめんね、小太郎。

「小太郎が隣にいてくれて、私は幸せだった」


 こんな方法でしか君を守れない私を、どうか許してね。