物心がつく少し前から、不吉な夢を見るようになった。
 誰かが怪我をする夢、誰かが事故に遭う夢、誰かが深い眠りについた夢。――真っ黒な靄に追われてようやく夢から覚めると、いつも私の頬には涙の痕が残っている。
 次第に「誰か」がはっきり見えるようになったのは中学生になってすぐのことだった。夢から飛び起きた時の、尋常じゃない汗を浮かべていたのを今でも覚えている。
 なんせ、初めて見えた「誰か」が、幼なじみの小太郎だったから。

 ――『ごめん、アイス買えなかった』

 その日見たのは、小太郎が松葉杖で帰ってくる夢だった。ただの夢だと思って深く考えることはなく、夏休みの課題をするために彼の家へ向かった。
 一通り解き終えたところで、アイスを買いに小太郎が自転車を漕いで出掛けたけど、一向に帰ってくる様子はない。心配していると家に「息子さんが怪我をして病院に搬送されました」と電話がかかってきた。おばさんにお願いして一緒に病院にいくと、顔や腕に絆創膏、左足をギプスで固められた彼がそこにいたのだ。

 話を聞けば、コンビニに行く途中の下り坂で自転車のブレーキが壊れ、そのままコンクリート塀に突っ込んだらしい。顔や腕の傷はたいしたことはなかったものの、左足は骨折していると診断された。

 看護師さんから松葉杖を受け取って歩き出すと、私を見て申し訳なさそうに言う。

「ごめん、アイス買えなかった」

 夢と同じ光景に、今まで曖昧だった不信感が確信に変わった。私が見てきた夢は、誰かが不幸になる前兆――予知夢なのだと。

 だから小太郎が怪我を負ったのは、私のせいだと思った。
 あの夢を疑っていなかったら、買い出しに行かせなかったし、言わなくても引き留めることだってできたはずだ。