かすれながらもふり絞って出した声が裏返る。 

「何事も真っ直ぐ、正しいと思ったことだけを選ぶなんて、できたら誰でもやってるはずだ。大人だってできないんだよ、ガキができるわけねーだろ! 人間を簡単な生き物だと思うな!」

 正しいことをしただけで否定される世の中で生きることは、時に死ぬより苦しいことかもしれない。
 だから皆、嘘をついて自分を守るしかない。

 自分が傷つきたくないから、突き放す。――俺だってそうだった。

 高校に入ってから凛花と話す回数は極端に減った。いつも明るくて、友達が多くて。俺なんかと一緒にいることが不思議なくらいで。きっとそのうち俺から離れて、彼氏とかできるんだとかなって思ってた。 

 そんな時だ。放課後の教室に忘れ物を取りに来た俺は、凛花が同じクラスの男子生徒に告白されているところに遭遇した。よくは聞き取れなかったけど、一緒に教室を出ようとしたタイミングで思わず逃げ出したのだ。盗み聞くつもりじゃなかったのに、どうしても二人が一緒にいるところを見たくなくて、彼女が遠くに行ってしまいそうで、目を瞑って知らないフリをしていたかった。

 翌日、男子生徒が凛花に振られたらしいと噂が流れてきた。どうやら入学してすぐの一目惚れだったらしい。話を聞いて内心、ホッとした自分に嫌気がさした。

 明日も隣にいることを信じて疑ってこなかった。でもいつか、幼なじみはただの建前になって知らぬ間に離れていく曖昧なものだと悟る。

 ――いつか凛花に大切な人が出来たとき、俺は心から祝福できるのか。

 それ以来、俺は凛花と関わることをどこか恐ろしく思うようになった。
 今までの幼なじみという関係が崩れたときの反動が怖かった。大切にしたいものを自分の手で傷つけてしまうかもしれない不安の方が大きかった。

 遠ざけた結果がこのザマだ。

「お前から逃げてたんだ。助けてくれたのに、ずっと傍にいてくれたのに。お前が救ってくれた命なのに、俺はまだお前に礼の一つも言えていない」
「なにを言って……!?」

 困惑する仲介人が後ろを見て驚く。
 そこにはあの日の凛花の姿があった。赤く点滅する信号機の真下まで来ていた彼女は、唇を噛み締めるようにしてこちらを見ている。 

「仲介人」

 さらにポンチョの首元を絞める。顔を歪ませた、何者か分からない仲介人に俺は縋った。

「俺が渡せるもの、全部くれてやる。だから――俺と取引しろ」