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 通りすがりの通行人が呼んだ救急車に飛び乗って、病院の処置室に何時間立ち尽くしただろうか。

 手術が成功したと伝えられたときも何も考えられず、看護師に背中を押されてようやく病室に辿り着いたらしい。放心状態にあったようで、よく覚えていない。

 ベッドの上には頭部を包帯で巻かれ、様々な管に繋がれた凛花が静かに眠っている。呼べばすぐ目を覚ましてくれるかもしれない。そう思って口を開いたが、言葉は何も出てこなかった。

 しばらくして凛花の両親が息を切らして入ってきた。ベッドで眠る彼女が目に入ると、おばさんは縋りついて娘の名前を呼ぶ。

「凛花、凛花ぁ!」
「落ち着け、医師の話だと眠っているだけだから、今は……」

 体を揺らして起こそうとするおばさんを、おじさんが肩に手を添えて抑える。二人にとっては、朝元気に出掛けていった娘が、まさかこんな形で戻ってくるとは想像すらしていなかっただろう。

 すると、おばさんが俺がいることに気づいて、キッと睨みつけると力強く腕を掴んだ。

「どうして、どうして小太郎がいたのに止められなかったの? あなたが凛花を止めていれば、こんなことにならなかったかもしれないじゃない! なにがあったの? まさか……あなたが突き飛ばしたんじゃないでしょうね!?」
「母さん、落ち着け。小太郎がそんなこと……」
「落ち着いてなんていられますか! あの子がこんな、こんな目に遭わないといけないの……!」

 腕を掴んだままその場に立ち崩れる母親に、何を言えばいいのかわからなかった。俺だって何が起こったのか、未だに受け止めきれていない。

 直前に見た、自分に微笑んだ凛花の姿が今も頭から離れない。

 死期を悟ったように笑った彼女が、わからない。

「なんで凛花がこんな目に遭わなきゃならないのよ! 全部あなたのせいよ!」

 答えは出ない。