「ねえ、教えてよ。君はどうして彼女の気持ちを無視してまで足掻くの? 自分の道は自分で決めるとか、そんな綺麗事が通じるなんて信じる根拠は?」

 困ったように首を傾げながら仲介人は問い続ける。冷気は留まることを知らず、頬から喉へ流れるように冷えていく。何も言い返せなくて、どんどん体温が奪われていく。

 次第に息をすることさえ苦しくなって、吐いた息が真っ白に染まった。視界も奪われそうになって、仲介人から目を逸らす。すると、仲介人の向こう側――横断歩道の真ん中に誰かが立っていることに気付いた。茶色に染まった髪が揺れ、何か言っているように見えた。

「……だ」
「ん?」
「もう、逃げるのも見て見ぬふりするのも嫌だ」
「逃げる? 神様が決める人生に、逃げる選択肢なんてあると思う?」
「あったよ。俺はずっと選んでた。気が楽な方に、誰かの邪魔にならないように、逃げる選択をしてきた。でも、これで最後にする」

 頬に触れている仲介人の腕を力いっぱい掴んで強引に振り払う。手が触れていた部分は外気に触れてヒリヒリと痛んだ。顔をしかめながらも、仲介人を真っ直ぐ見据える。

「向き合えないまま、後悔したまま逃げるのは違う。たったこれくらいのことで、手ぶらで帰るわけにはいかないんだよ!」

 仲介人が驚いた様子で一歩後ずさった。それを見逃さなかった俺は立ち上がって、今度こそポンチョを掴んだ。あの時みたいにまた逃げられないように、指が自分の手のひらに食い込むほどしっかり掴んで離さないようにする。

「き、君は何なんだ! ボクみたいな何者かわからない奴に、真正面から挑むなんて前代未聞だぞ!」

 知るかよ。――と悪態をつく余裕はなかった。

 仲介人の冷気のせいで、充分に空気を取り込めていない。視界もふらついてきた。それでも掴んだこの手を離すわけにはいかなくて、指先に力を込める。

「どうやら随分彼女に入れ込んでいるみたいだね。そんなに彼女が好きだったなら、どうして彼女に想いを伝えなかった? 好きだと一言告げることを、どうして恐れた!?」
「……それができたら、悩むことねぇんだよ!」