めでたしめでたし、と仲介人が拍手を送る。たまらず顔を上げて睨みつけた。

「勝手に終わらせるな。つか、全然思い通りのストーリーじゃねぇだろ」
「……どういう意味だい?」
「お前の作った筋書き通りなら、凛花は俺のことを完全に忘れていないといけないはずだ。それでも凛花は、一番好きだったラムネではなくバニラを選んだ。完全に記憶から省かれていないのは、なにか企んでいるのか?」
「らむ……何の話?」
「アイスだよ。お前、記憶は消すだけで中身を見ないのか? 夢を喰うバクの癖に」

 凛花がバニラアイスを食べ始めたのは、俺が「頬が落ちる魔法」を教えた後のことだ。だから事故の後で俺との記憶を完全に失くしたのなら、コンビニで選ぶアイスはラムネであるべきだった。それは微かでも凛花の中に、自分との記憶が残っているからではないか。

 これが凛花の中に残っていた記憶が覚えていたのならまだいい。キャスケットの下の口元がわなわなと震えているのは、おそらく仲介人のミスなのだろう。

「……ならば聞こう、溝口小太郎」

 仲介人は小太郎と同じ目線になるように屈んだ。三日月のように歪んだ口元が崩れ、つまらなさそうな顔をして問う。

「せっかく彼女が記憶を売ってまで救った未来を、君は無駄にした。告白を受けたら友人も君も幸せになれたはずだ。どうして誰もが傷つく未来を選んだの?」

 仲介人は俺の頬に手を添えた。何が起きたのか、一瞬で顔の半分が引きつったまま動かなくなった。まるで氷を押し付けられたように、寒気が襲い、だんだんと体温が奪われていく。観覧車の時とは比べ物にならないほど、恐ろしい冷気に包まれた。

 直感で思った。――殺される、と。