「しかも彼女は、君に好意を抱いている友人の恋愛相談を自ら買って出ていた。二つの事実に板挟みになり、抱えきれなくなっていたんだよ。……苦痛でしかなかっただろうね。だからボクは、ある提案をしてみた。ボクが【事故の後遺症を最小限で済むように細工する】。その代わりに、彼女の記憶にある【一番大切な人との思い出】をもらう。神様が決める人生とはいえ、ボクなんかが弄ったところで大きく変わるとは思えない。だから失敗する可能性も伝えたうえで、彼女はこの案に乗ったんだ」
「……要は、お前が(そそのか)したってことだろ」
「悪く言えばそうなるね。結果的に成功したから御の字でしょ」

 なんてクズだ。

 俺はその場に立ち崩れた。面白がって笑う仲介人に怒りを通り越して、持っていたアイスを手放してしまうほど、酷く動揺している。人の人生を将棋やチェスの駒のように、自由に動かせる存在があるなんて考えられなかった。

 そして後悔した。自分を助けるために仲介人に唆された凛花が、どれだけ切羽詰まっていたのか。どうして気付いてあげられなかったのか。

 今更嘆いても、それは仲介人のご褒美にしかならない。

「君にはわかるかい? 追い詰められた人間が、最終的に自分の身を犠牲にしてまで守ろうとする覚悟。実に美しいものじゃないか。だって人間っていうのは、死んだら終わりなんだろう? 結果的に君は無傷で今日も生きて、友人は君に告白することができた。彼女が描いた通りのストーリーじゃないか!」