「ボクはこれが未来であり、すでに神様によって確定しているのだと思っていた。彼女に会うまではね」
「……凛花と、会ったことがあるのか?」
「そもそも彼女とはこの空間で出会ったんだ」

 両腕を大きく広げると、殺風景なこの空間を自慢げに謳う。

「ここは【夢と夢の境界線】。悪夢が溜まりやすい場所なんだ。生と死の狭間と呼ぶ人もいるね。人が眠りにつく先は天国か地獄。その手前にあるのが、この場所だよ。ある意味死人が訪れる場所とも言えるね」
「死人……お前は死んでるのか?」
「言っただろう? ボクは人間ではない。そうだな……バクみたいなものかな。人の悪夢を食べて生きるモノ。だから人間という生き物にはすごく興味がある。だって自分の未来のために足掻くのが人間でも、結局最後を決めるのは神様だ。君じゃない。その道中だって、自分で切り開いたものとだと勘違いしているんじゃない? 偶然なんてない、必然しかない世界で生きる君の……いや、君たち(・・・)の行動がボクには理解できない」
「どういうことだ?」

「古賀凛花は異常だ。生きている人間がこの場所に来れるはずがない。それでも彼女はやってきた。驚いたよ。これはボクの推察だけど、予知夢が関係していると思うんだ。彼女の見る夢はすべて誰かが傷つくものだった。それが起因してここに繋がった可能性は充分にある。声をかけたのはもちろんボクからさ。不幸な夢ばかりを巡る彼女に興味がある。話を聞けば『大切な人が事故に遭ってしまう、どうにか回避したい』ってさ。何を思ったのか、このボクに助けを求めてきたんだ。たった数秒前に出会った正体不明、人間かも分からないボクを頼る? そんなことをしてくる人間と関わるのは初めてだった!」

 ケタケタと腹を抱えて笑い転げる仲介人に、沸々と苛立ちを覚える。今なら一発殴ってもいいんじゃないかと固めた拳を、懸命に抑え込む。