「――それ以上はルール違反だ。君達は校則違反の常習犯なのかい?」

 座っていた公園のベンチから一転、気付けば事故のあった横断歩道の前に立っていた。あの日と変わらない強い日差しは、コンクリートに陽炎を作り出す。

 ――いや、違う。

 よく似ているが、事故現場ではない。凛花が退院してすぐの頃、一度だけ来たことがある。夢のようなこの曖昧な空間は、おそらく仲介人の仕業だろう。
 ふと隣を見ると、先程まで一緒だった凛花がいない。渡そうとしたバニラアイスだけが、袋のまま手元に残っている。

「彼女はいないよ。君だけ飛ばした」

 目を向けると、仲介人が横断歩道の中心に立っていた。奥に見える歩行者用の信号は、青のランプが点滅を続けている。

「またルール違反をしそうになったから止めに入ったんだけど、どうやら君も準備ができたみたいだからさ」

 答え合わせをしようよ、と。

 仲介人は深くかぶったキャスケットの下で三日月のような口で笑った。その不気味な口元に思わず身震いする。

「友人の方から告げてくれたようだけど、大方想像している通りだよ」
「……あの日、横断歩道で事故に遭うはずだったのは俺だった」
「正解! 君は何かに絶望していたわけではない。ただ運命の悪戯によって事故に遭ってしまった。……でも決して、それが死の予兆だとは誰も言っていない。彼女の予知夢はそこまで正確なものや時間を見ることはできないみたいだね」
「じゃあ、事故に遭っても死ぬことはなかった……?」
「そうかもしれない。三日後に起こる誰かの不幸は、どんな結末を迎えるのかもわからなければ、本当に三日後に起きるかも不確定だ。確定しているとすれば、最悪は死だった、ってことくらいかな」

 仲介人が楽しそうにベラベラと話していく。
 確かに凛花が見て宣言した不幸の夢は、大体三日だった。百発百中ではないことは、考えればすぐにわかっただろう。だから俺が事故に遭うのはあの日じゃなかったかもしれない。まだ予知は続いていて、明日事故に遭う可能性だってある。
 仲介人はさらに続けた。