「一人にしか見せない顔って、心許している証拠でしょ。私、凛花が羨ましかった。明るくて、他人のことを優先できるあの子が、一緒にいて自分が嫌になるくらい。だから、諦めようと思ったの。そしたら、私が溝口のことが好きってことに気付いたの。相談まで乗ってくれて……」
「ちょ、ちょっと待って。そんなことを凛花に相談してたの?」

 知らなくて当然ではあるが、凛花は青山の気持ちを知っていたのなら、高校に入って話が減っていったのはこのことがきっかけだったんじゃないか?
 すると青山はキッと俺を睨んだ。

「……そんなこと? そんなことってなに? 私にとっては大切なことだったんだから! ……でも凛花もすごく悩んでた。いつも笑ってるから気付かなかった、ううん、気付いてて知らない振りをした。だって私も悩んだから。……それで、事故に遭う二日前に言われたの。『私が忘れたら、溝口のことをよろしくね』って」
「忘れたら……? それって――」

 どういう意味、と言いかけた途端、床にゴム底が擦れる音がした。ハッとして振り向くと、そこには登校したばかりの凛花が立っていた。

「り、凛花……?」
「……今来たところで、二人がいるから声かけようと思ったんだけど……と、取り込み中だったね! ごめんね、先に教室に行ってるから!」
「待っ――!?」

 凛花が振り切るように足早に立ち去る。その後を追いかけようとする青山を、慌てて腕を掴んで引き留めた。

「待って、青山!」
「何よ! 誤解を解かないと凛花の傍にいられなくなる!」
「その前に教えてくれ! 多分お前しか分からない!」
「え……?」
「アイツが何かに悩んでいたこと、思いつかないか? そのせいで記憶が無くなっていたとしたら、事故に遭った理由もわかるかもしれない。知ってたら教えてくれ、頼む!」
「……どうしてそこまでするの? 幼なじみだから?」

 青山に問われ、一度口をつぐむ。
 目の前で凛花が車にはねられた時――唐突で呆気なくて、悲しむ暇なんてなかった。飛び出す直後に言い残した時の涙を流して笑った表情も、ピクリとも動かなかった彼女が車道で横たわっている光景も、今でも鮮明に思い出す。

 どうしてこうなってしまったのか。自ら飛び出す必要があったのなら、何か理由があるかもしれない。わずかな可能性に賭けるしかなかった。

「大切な奴だから、笑っていてほしい。それだけなんだ」
「…………何よ、それ」

 ――私、遠回しに振られてるじゃない。

 青山はそう呟きながら、うっすらと浮かべた涙を袖口で拭って話し始めた。

「溝口は、予知夢って信じる?」