近くに誰もいないことを確認すると青山は突然、勢いよく頭を下げた。

「ごめん!」
「青山……?」
「遊園地の時……ううん、ずっと溝口に嫌な思いさせてた。凛花が事故に遭ったことに悲観していたけど、溝口は凛花の記憶からいないことになってる。……辛いわけがない。それなのに私は、溝口が凛花を突き飛ばしたって決めつけて、傷つけた」
「青山は凛花を守ろうとしただけだ」
「……え?」

 牧野が言っていたように、青山は凛花を大切に想ってくれている。だから事故に遭わせたであろう俺を酷く恨んだし、冷たく当たってきた。それに事故の日、凛花と一緒に帰るはずだったのは青山だ。少なからず罪悪感を抱き、より過保護になっていてもおかしくはない。

「アイツの不安要素を減らそうとしてくれたんだろ。ありがとう」
「溝口……なんで」
「それと、俺も言い過ぎた。悪かった」
「……アンタだって、凛花のことを守ろうとしただけなんでしょ。お互い様じゃない」

 青山は視線を逸らした。そしてなにか決心したように、俺を見て訊く。

「事故に遭う前に、凛花に何か言われた?」
「は……?」
「一緒に帰ったんでしょ、直前に私のことで何か言ってなかった?」
「何かって……」

 直前までアイスを食べていたから、口数は少なかったと思う。突発的に言い出したとしたら遊園地の話と、『小太郎が隣にいてくれて、私は幸せだった』と振り向いて笑ったことくらいか。青山の名前が出たのは、商店街の景品が当たったことしか出てきていない。

「あの子は、どこまで見通してたの……?」
「どういう意味だ? つか、何の話?」

 青山が震える手を押さえながら続ける。

「私、溝口のことが好きだったの」