「小太郎、学校に行くよーっ!」

 小学校に入学してしばらくすると、俺は部屋に引きこもるようになった。
 背の低い順で整列すると決まって先頭に立たされた俺は、同級生にからかわれて泣いてしまったことがきっかけとなり、彼ら嫌がらせを受けるようになった。先生はじゃれているものだと決めつけて注意もしない。学校に通うことが嫌になって、半ば強引に引きこもった。両親には言えなかった。

 それでも凛花は諦めることせず、毎朝家まで俺を迎えに来たし、放課後には課題のプリントを届けに来てくれた。「一人でいけば?」と突き放せば、凛花は決まってこう返す。

「小太郎も一緒の方がいい! 私が楽しいの!」
「なんだそれ……」
「小太郎は? 私と一緒はいや?」

 そう聞かれてしまえば、俺は素直に部屋を出るしかない。

 たかが背が低いだけで。
 たかが人よりも少し泣き虫なだけで。

 他人にはただの茶化しだったとしても、俺にとっては「自分には価値がない」と散々言い聞かされた気がしていた。

 そんな時は決まって隣には凛花がいる。背中を押してくれているようで、脅されている気分にもなった。それでも結局、アイツの存在が何度も救ってくれた。井戸の底に沈んでいた俺を地上まで引っ張り上げたのは、紛れもない凛花だ。
 そんな彼女の助けになりたくて、できるかぎり一緒にいた。

 アイス一つで笑ってくれる彼女と、少しでも一緒にいたい。
 明日も彼女の隣にいるのが自分であると、少しも疑っていなかった。

 それだけじゃダメだって、自分が一番わかっていたはずだった。
 中学生になって、俺は気付かないフリをした。