ただ、訳も分からず首を傾げる凛花を見ていると、これを何も考えなしに提案しているのではと、不安がよぎった。なぜか腹の中がもやもやしている。

「ね、一緒に行こうよ。きっと楽しいよ」

 上目遣いで聞いてくる凛花から目を逸らす。面倒臭いと断ればすぐ済むのに、自分以外の男を新たに誘うかもしれないと思うと癪に障る。

「……いつ行くの?」
「予定では夏休み入ってから。皆まだ部活やってるし。ってことは小太郎はいつでも良い感じ?」
「まだ行くとは言ってない。……まぁ、考えておく」

 そう曖昧に答えると、凛花は嬉しそうに笑った。

「そういう時って必ず小太郎は来てくれるんだよ! ありがとう」
「だから、まだ――」
「私も行きたかったなぁ」

 横断歩道の手前で足を止めた。歩行者用の信号機は青の点滅から赤に切り替わる。

「行くんだろ? お前も」
「…………」

 俺の問いかけに、凛花は黙ったまま困ったように笑う。嫌な予感がした。
 すると凛花は、食べかけのバニラアイスを地面に向けてにおろした。炎天下でアイスは溶け、雫となってコンクリートに垂れていく。

「凛花、何があった? 俺には言えないこと?」
「……小太郎、すごく久しぶりに名前を呼んでくれたね」

 問いかけに答えることなく、凛花は遠くを見ながら続けた。

「最近……ううん、高校入ったくらいから話すこと少なくなって、寂しかったんだ。小太郎がすごく遠いところに行っちゃった気がして」
「……それは」
「だから、嬉しかった」

 凛花の声は震え、頬に一筋の涙が伝う。ゆっくり微笑んで、そして。

「小太郎が隣にいてくれて、私は幸せだった」

 瞬きをした瞬間、ブレーキ音が辺り一帯に響き渡った。

 バニラアイスが宙を舞ってぼとりと地面に落ちると、目の前が鮮明な赤で染まった。

 通りかかった人の悲鳴が聞こえる。フードのへこんだ車の運転席から慌てて降りて、いち早く駆け寄った。呼びかけても反応はない。俺は駆け寄ることもできず、その場に立ち尽くした。

 凛花はピクリとも動かなかった。