11.絶望の青色レーザー
オレンジ色に輝きながらマッハニ十キロでカッ飛んでいく弾頭は、射弾観測機器に同期してモニタの中でしっかりと表示されている。
「十、九、八、七……」
モニタには着弾予定のカウントダウンが表示されている。
涼真は腕組みをしながらモニターにくぎ付けとなった。
「三、二、一……」
そして、モニタが閃光で光り輝く。直後、オレンジ色の輝きを放ちながら何かが下へと落ちて行った。
「撃墜!」
涼真はガッツポーズで叫ぶ。初弾から命中、なんと優秀な兵器だろうか。
「目標沈黙よ!」
彩夏がスマホを見ながら嬉しそうに出てくる。
「イェーイ!」「いぇー!」
二人はハイタッチで撃墜を喜んだ。
と、その時だった、辺りが青く明るくなっていく。
「あれ? なんだこの青い光は……」
涼真が空を見上げてつぶやくと、彩夏は涼真に飛びつき、
「ダメッ! 逃げなきゃ!」
そう叫んで涼真に抱えたまま高速で飛び出した。
直後、電磁砲が閃光に包まれ、大爆発を起こす。
うわぁ! きゃぁ!
直撃は免れたものの衝撃波をまともにくらい、二人とも空中でクルクル回りながら岩山のふもとの森へと落ちて行った。
バサバサバサッ!
二人は巨木の枝に当たりながらも、神の力で減速させ、落ち葉の積もる地面に落ち、ゴロゴロと転がった。
「くはぁ……なんだあれは?」
涼真は体中についた落ち葉を払い落しながら起き上がる。
「衛星軌道からのレーザー攻撃よ。シアン様が座学で言ってたじゃない!」
「え? そんなこと言ってたっけ?」
涼真が首をかしげてると、
「居眠りでもしてたんじゃないの?」
と、彩夏はジト目で涼真をにらんだ。
「ま、まぁレーザー攻撃だったとして、誰が……?」
涼真がそう言った時だった、薄暗い森の中に閃光が走り、輝く何かが上から降りてくる。
ひぃっ! うわっ!
思わず腕で目を覆う二人。
「それは私です」
神経質そうな高い声が森に響いた。見るとヒョロリとしたダークスーツの男が宙に浮いている。
「あ、あなたは……デュドネ?」
青い顔をしながら彩夏が聞く。
「そう! 僕はこの星の元管理人デュドネ・リュバン。君たちは田町の……手先……かな?」
デュドネはいやらしい笑みを浮かべながら二人を睥睨する。
「テロリストめ! 何てことするんだ!」
涼真はキッとにらみながら叫ぶ。
「テロリスト? それは田町の勝手なレッテル貼りだ。私はこの星をここまで繁栄させ、豊かな文化を育んだ功労者……。それを勝手にテロリスト呼ばわりして追放とか……あり得んよ」
デュドネは肩をすくめ首を振る。
「女の子を次々とレイプしてたって聞いたわ!」
彩夏は涼真の後ろに隠れながら叫ぶ。
「レイプ? 神であるこの私に犯されることは名誉であり光栄なこと……神からの施しであり、福音だよ」
悪びれず、嬉しそうに言う。
「何が福音よ! 嫌がる娘を犯すのは犯罪よ!」
「んー? 嫌がる女がイヤイヤ言いながら、快楽におぼれて行くさまが最高なんじゃないか」
デュドネは犯してきた女の子たちを思い出しながら恍惚の表情を浮かべる。
「変態! シアン様に成敗してもらうんだから!」
彩夏は鳥肌を立てながら叫ぶ。
「シアン? 奴らはこの星には来れないよ。量子コンピューターでも破れないセキュリティでロックしたからね」
勝ち誇ったように言うデュドネ。
「え……?」
青ざめる彩夏。
涼真も彩夏も研修を受けただけのただの囮である。手練れの元管理人相手には分が悪い。
「君……、可愛いね。どんな声で鳴くのかな……」
デュドネはそう言いながら右手に紫色の光を纏わせた。
「逃げるぞ! 彩夏!」
涼真はそう言って彩夏の手を握ってワープしようとした。しかし……。
「あれっ? えっ?」
ワープはできなかった。
「無駄だよ。このエリアではワープ機能をロック済みだ。逃げられちゃ困るからねぇ」
デュドネはそう言ってニヤッといやらしい笑みを浮かべる。
12.花開く巫女
くっ!
涼真は森の奥へ走り出そうとした。
しかし、デュドネは右手を彩夏に向けて振り下ろし、光る鎖を放った。鎖は紫色に蛍光し、ウネウネと動きながら飛んでくると、彩夏の周りをクルクルと回ってしばった。そして、グイッと彩夏だけ釣り上げたのだった。
「きゃぁ! 涼ちゃーん!」
「うわっ! 彩夏ぁ!」
彩夏はそのまま近くの巨木に手足をしばりつけられ、はりつけのようにされてしまった。
「止めてぇ!」
叫ぶ彩夏にデュドネは迫ると、アゴを手のひらで持ち上げ、いやらしい目でじっくりと品定めをする。
「うん、肌も瞳も合格だな……美しい。私のコレクションに加えてやろう」
「い、いやぁ!」
彩夏は恐怖にガタガタと震えながら叫ぶ。
「いいね、いいね、犯しがいのあるいい表情だ……」
そう言うと、デュドネは彩夏のボーダーのシャツをビリビリと破いた。
「いや――――!」
彩夏は必死にあがくが鎖ががっちりと手足を縛っていて身動きが取れない。
「うーん、エクセレント! いい声だ……」
デュドネは恍惚とした表情でニヤける。
「俺の彩夏に何すんだよ!」
涼真はハッキングツールを右こぶしにつめるだけ詰め込み、青白く光らせてデュドネに向けて超高速で飛びかかった。
目にも止まらぬ速さで放ったパンチ、しかし、デュドネは待ってたかのように左手でスッといなす。
そして、代わりにカウンターを涼真におみまいする。
それはさすが戦いなれた元管理者と言うべき鮮やかな返しだった。
ガスッ! という、鈍い音が森に響く。
しかし、涼真はそれを額に展開したシールドで受け、辛うじて耐えた。
大切な彩夏を穢されること、それは命にかけてでも止めねばならない。
涼真はギリッと奥歯を鳴らすと、左こぶしを光らせてデュドネの顔面を狙った。
うわっ!
デュドネは予想外の涼真の健闘に驚き、スウェーで逃げたが、目の上をかすめ血が飛んだ。
たまらずデュドネは距離を取る。
「くっ! ひよっこの分際で!」
デュドネは余裕を失い、全身を光らせると涼真に突進し、人間離れした連打でボコボコとパンチを打ち込む。必死にガードする涼真だったが、最後ボディに蹴りを叩きこまれ吹き飛んだ。
ぐはぁ!
涼真は口から血を吐きながら落ち葉を巻き上げ、ゴロゴロと転がっていく。
「あぁぁ! 涼ちゃーん!」
彩夏の悲痛な叫びが森に響く。
デュドネは肩で息をしながらニヤリと笑うと、
「君はこの娘がヒイヒイと可愛い声で喘ぐのを聞いてなさい」
と、言いながら彩夏の髪の毛をガシッとつかんだ。
「ひぃっ!」
顔を歪める彩夏。
「これから信じられないような快感に沈めてやるからな……くふふふ」
デュドネは彩夏の顔をのぞき込むと、いやらしく言い放ち、破けた服のすき間から胸に手を伸ばす。
「や、やめてよぉ! うっうっうっ……」
彩夏の嗚咽が森に響く。
「うーん、貧乳だな。胸は残念だ」
デュドネがそう言った時だった。
カチッ!
彩夏の中で何かのスイッチが入った。
「え……? 何? 今なんて言ったの?」
ゾワゾワと彩夏の心の奥底から黒い何かが湧き出し、漆黒のオーラが彩夏を包んでいく。巫女の血が開花したのだ。
「うわぁ! なんだこれは!?」
オーラはデュドネにも広がり、まとわりついていく。
「ねぇ? もう一度言ってくれる?」
彩夏の黒い瞳の奥に真紅の炎がゆらりと揺れた。
「ひ、貧乳……か? なんだよ! 本当のことじゃないか!」
デュドネは必死に漆黒のオーラをはたき落とそうと頑張る。
パーン!
彩夏を縛っていた紫の鎖が砕けちった。
「へ?」
何が起こったか分からないデュドネ。
「涼ちゃんはこの胸を『好きだ』って言ってくれたのよ!」
彩夏はデュドネの胸ぐらをつかみ、凄む。
「わ、悪かった……」
デュドネは必死にいろんなツールを起動し、彩夏を抑えようとするがことごとく起動に失敗し、対抗できずにいた。
「死ね!」
彩夏は思いっきりデュドネの股間を蹴り上げた。
グフッ!
デュドネは声にならない叫びを上げながら地面に落ちる。そして、股間を押さえたまま悶えながら落ち葉まみれになった。
13.ずっと一緒
そんな姿を睥睨した彩夏は、
「女の敵、ゆるすまじ……」
そうつぶやくと一気にデュドネとの距離を詰める。
「こっ、小娘め! 調子に乗りやがって!」
デュドネは全身を青白く光らせ、全力でもって彩夏を迎え撃つ。
全身のあちこちから放たれる漆黒のハッキング弾が彩夏めがけて襲いかかる。
彩夏は腕をピンク色に光らせ多くを払いのけたが、残りは彩夏の身体のあちこちに刺さり、ヒルのようにとりついた。そして弾からは彩夏をハックしようとする信号が出される。
直後、ボン! と爆発音がした。しかし、爆発したのはデュドネの方だった。デュドネ身体のあちこちがスパークを伴いながら次々と爆発していく。
瞳の奥に赤い炎をゆらしながらニヤリと笑う彩夏。彩夏にとりついたハッキング弾はポロポロと落ちて行く。
「ぐはぁ! な、なぜ……」
デュドネは苦悶の表情を浮かべる。
彩夏はデュドネに瞬足で迫ると、
「涼ちゃんのお返しよ!」
と、叫びながら渾身のビンタをバチコーン! とデュドネの顔面に放った。
ボロボロになったデュドネはクルクルと宙を舞い、木の幹にガン! と派手にぶつかって気を失い、落ち葉を舞いあげながら転がっていく。
「成敗!」
ハァハァと肩で息をつきながら彩夏は叫んだ。
巫女の血が目覚めた彩夏は、こうしてテロリストの制圧に成功したのだった。
◇
彩夏は涼真の所へ急いだ。
気を失ってる涼真を抱き上げ、胸でギュッと抱きしめる彩夏。
「涼ちゃん……」
彩夏は治癒の力を使って涼真のケガを一つずつ丁寧に治していく。
やがて、涼真は目を覚ます。
う?
ふんわりと柔らかく温かいものがほおに当たっている……。
目を覚ますと、破けたボーダーシャツのすき間から発達途中のふくらみがのぞいていた。
へっ!?
一気に目が覚めた涼真は上を見上げる。
「涼ちゃーん!」
彩夏は気がついたことに喜び、グリグリと涼真の顔をきつく抱きしめた。
「うわ、おわぁ……」
涼真はうれし恥ずかしで混乱して変な声が出てしまう。
「涼ちゃん、もう大丈夫よ。私、倒したから」
彩夏はそう言って転がっているデュドネを指さした。
「へ? お、お前がやったのか?」
「うん」
そう言ってうなずく彩夏。
涼真は立ち上がると恐る恐るデュドネに近づき、特殊な捕縛の鎖でグルグルと縛った。
「これでもう大丈夫だな」
涼真が彩夏を見てニコッと笑うと、
「涼ちゃん……」
そう言って彩夏は目に涙をためる。
「ど、どうしたんだ?」
彩夏は涼真の胸に飛び込み、
「恐かったの……。もうダメかと思っちゃった……」
と、さめざめと涙を流した。
「そうか……、危なかったな。役立たずでごめん……」
涼真は彩夏の髪をなでながら謝る。
「ううん……。私を守ろうという涼ちゃんの命がけの攻撃……。あれに勇気をもらったのよ」
「そ、そうなのか?」
「うん……」
そう言って、彩夏は愛おしそうに涼真の胸をスリスリと頬で感じた。
そんな彩夏を涼真はギュッと抱きしめる。
「ほんと良かった……」
涼真は心から安堵し、何物にも代えがたい幸せな心温まる時間を感じていた。
「あのね……」
彩夏がぽつりとつぶやく。
「どうした?」
「私……、もう涼ちゃんがいないとダメみたい……」
「そ、そうなの?」
涼真は妹にそんなことを言われてどうしたらいいのか困惑する。
「ねぇ……」
甘えた声を出す彩夏。
「な、なぁに?」
「ず、ずっと一緒に……いて……くれる?」
彩夏は恥ずかしげに絞り出すように言った。
『ずっと一緒』それはどう解釈したらいいのだろうか? 涼真は今、自分が人生における一番大切な瞬間に立っていることに気づいた。もし、『一生一緒』という意味であればこれはもうプロポーズなのだ。
「ず、ずっと……って?」
「ずっとはずっとよ! いつまでも……一緒に……」
やはり、そう言う意味らしい。涼真は大きく息をついて考える。彩夏のいる人生、彩夏と離れた人生、どちらがいいか……。しかし考えるまでもなかった。答えは明白なのだ。
涼真は自然とゆるむほほに自分の本心を知る。
「わかった。ずっと一緒だ。いつまでもずーっと……」
涼真は彩夏の髪にほほを寄せた。
14.限りなくにぎやかな未来
「ほんと……?」
彩夏はおずおずと涼真から離れると、おびえるようにして涼真の目を見る。
「あぁ、本当だよ」
涼真はニコッと笑って優しく彩夏のほおを撫でる。
「やっ、やったぁ!」
彩夏はこれ以上ない幸そうな表情で、涼真の胸に顔をうずめた。
涼真はもう後戻りできない決断をしたことに少し怖気づきつつも、心のままにあることが正しいことだと思い直し、じっと彩夏の体温を感じた。
すると今度は、うっうっうっ……という嗚咽が聞こえてくる。
「おいおい、どうしたんだ?」
「うれしいの……。うっうっうっ……」
涼真は湧き上がってくる愛しい気持ちが押さえられず、ギュッと彩夏を抱きしめた。
「いつかは、涼ちゃん、どこか行っちゃうって思ってたから……」
「もうどこにもいかないよ」
「うん、約束よ」
「あぁ、約束だ」
彩夏は大きく息をつくと、涼真のことをチラッと見あげる。
そして、意を決すると背伸びをして涼真のくちびるにくちびるを重ねた。
チロチロと可愛い舌が涼真のくちびるをなでる。
一瞬焦った涼真だったが、想いを押さえられず、彩夏の舌に舌をからませた。
しばらく熱い想いを確認する二人……。
しかし、二人ともどこかぎこちなく、歯がぶつかってしまい、そっと離れた。
えへへへ。
彩夏は恥ずかしそうに涼真の胸に顔をうずめ真っ赤になった。
「これ、ファーストキス……よ。軽い女じゃないんだからね!」
「そ、そうか……。良かった」
「りょ、涼ちゃんは……?」
「ははは、俺だって初めてだよ。やり方も分からないくらい」
「ふふっ、良かった」
そう言うと彩夏はチラッと涼真を見上げ、そして、もう一度くちびるを重ねてきた。
涼真は妹とこんなあからさまな事をしてることに罪悪感を覚えつつも、どんどん心の奥から湧き出してくる抑えられない熱い想いに流されるまま舌を絡めた。
◇
「いやー、ゴメンゴメン!」
シアンが光を纏いながら森の中に降りてきて言った。
「頼みますよ、殺されるところだったんですよ?」
涼真はさりげなく彩夏から離れ、文句を言う。
「でも、結果オーライでしょ?」
ニヤッと笑うシアン。
「えっ!? もしかして……、見てました?」
焦る涼真。
「見ることはできたんだけどこっちに来れなくてねぇ」
ニヤニヤするシアン。
真っ赤になって無言の二人。
「勇者と巫女の子供、どうなるかな? 楽しみだね!」
「こ、子供!? いや、ちょっと、それは気が早いですよ」
「でも、いつかは作るでしょ?」
「いや……、まぁ……」
うつむく涼真。
「私は三人欲しいなぁ……」
彩夏はうれしそうに言う。
「えっ!? そ、そんなの、母さんになんて言うんだよ?」
「あら、ママは応援してくれてるわよ。『孫はまだか』って毎日うるさいのよ」
「へ?」
唖然とする涼真。もう外堀は埋まっていたのだ。
「ははは、結婚式は金星でやろうよ」
シアンはうれしそうに言う。
「き、金星!?」
涼真が焦っていると、
「金色の花が咲き乱れる丘の上に白いチャペルが建ってるんだ。素敵だよ」
シアンはそう言って映像をパッと浮かべた。
「うわぁ、素敵!」
彩夏はノリノリで答える。
「あぁ、まぁ、彩夏がしたいところで……って、結婚……本当にするの?」
「あら、涼ちゃん! 結婚しないでどうやって一緒にいるのよ?」
ムッとする彩夏。
「いや、まぁ、そうなんだけど……、えぇ……?」
さっきまで妹だった女の子が妻になる。その急激な変化に頭が追いついていかない。
「何? 嫌なの?」
眉を寄せて口をとがらせる彩夏。
この子と一生一緒……病める時も、健やかなる時も……。
涼真はじっと彩夏を見つめる。
そして、大きく息をつくとニコッと笑って言った。
「よし! 決めた!」
そして、彩夏をお姫様抱っこすると一気に夕焼け空へと飛び上がる。
「きゃぁ!」
いきなりの事に驚く彩夏。
真っ赤な夕陽が遠くの山の稜線に沈みかけ、辺りは鮮やかな紅色に染まっている。鳥の群れが編隊を組んで飛び、雲は茜色に光っていた。
「うわぁ、綺麗……」
壮大な景色に思わず見とれる彩夏。
「彩夏……」
「な、何?」
少し身構える彩夏。
涼真は彩夏をまっすぐに見て言った。
「俺と結婚してください」
彩夏はちょっと驚き、そして、目に涙をため、両手で顔を隠した。
「ほ、本当に私で……いいの? 無理……してない?」
「彩夏がいいんだ」
すると、彩夏は大きく息をつき、ニコッと笑うと、
「はい……。お願いします」
そう言ってポロリと涙をこぼした。
「ありがとう。大切にするよ」
「うん。大好き」
そう言うと彩夏は涼真の首に抱き着き、くちびるを吸った。
それを温かく受け入れる涼真。
想いを確かめ合う二人を、深紅の夕陽が鮮やかに彩っていた。
了
オレンジ色に輝きながらマッハニ十キロでカッ飛んでいく弾頭は、射弾観測機器に同期してモニタの中でしっかりと表示されている。
「十、九、八、七……」
モニタには着弾予定のカウントダウンが表示されている。
涼真は腕組みをしながらモニターにくぎ付けとなった。
「三、二、一……」
そして、モニタが閃光で光り輝く。直後、オレンジ色の輝きを放ちながら何かが下へと落ちて行った。
「撃墜!」
涼真はガッツポーズで叫ぶ。初弾から命中、なんと優秀な兵器だろうか。
「目標沈黙よ!」
彩夏がスマホを見ながら嬉しそうに出てくる。
「イェーイ!」「いぇー!」
二人はハイタッチで撃墜を喜んだ。
と、その時だった、辺りが青く明るくなっていく。
「あれ? なんだこの青い光は……」
涼真が空を見上げてつぶやくと、彩夏は涼真に飛びつき、
「ダメッ! 逃げなきゃ!」
そう叫んで涼真に抱えたまま高速で飛び出した。
直後、電磁砲が閃光に包まれ、大爆発を起こす。
うわぁ! きゃぁ!
直撃は免れたものの衝撃波をまともにくらい、二人とも空中でクルクル回りながら岩山のふもとの森へと落ちて行った。
バサバサバサッ!
二人は巨木の枝に当たりながらも、神の力で減速させ、落ち葉の積もる地面に落ち、ゴロゴロと転がった。
「くはぁ……なんだあれは?」
涼真は体中についた落ち葉を払い落しながら起き上がる。
「衛星軌道からのレーザー攻撃よ。シアン様が座学で言ってたじゃない!」
「え? そんなこと言ってたっけ?」
涼真が首をかしげてると、
「居眠りでもしてたんじゃないの?」
と、彩夏はジト目で涼真をにらんだ。
「ま、まぁレーザー攻撃だったとして、誰が……?」
涼真がそう言った時だった、薄暗い森の中に閃光が走り、輝く何かが上から降りてくる。
ひぃっ! うわっ!
思わず腕で目を覆う二人。
「それは私です」
神経質そうな高い声が森に響いた。見るとヒョロリとしたダークスーツの男が宙に浮いている。
「あ、あなたは……デュドネ?」
青い顔をしながら彩夏が聞く。
「そう! 僕はこの星の元管理人デュドネ・リュバン。君たちは田町の……手先……かな?」
デュドネはいやらしい笑みを浮かべながら二人を睥睨する。
「テロリストめ! 何てことするんだ!」
涼真はキッとにらみながら叫ぶ。
「テロリスト? それは田町の勝手なレッテル貼りだ。私はこの星をここまで繁栄させ、豊かな文化を育んだ功労者……。それを勝手にテロリスト呼ばわりして追放とか……あり得んよ」
デュドネは肩をすくめ首を振る。
「女の子を次々とレイプしてたって聞いたわ!」
彩夏は涼真の後ろに隠れながら叫ぶ。
「レイプ? 神であるこの私に犯されることは名誉であり光栄なこと……神からの施しであり、福音だよ」
悪びれず、嬉しそうに言う。
「何が福音よ! 嫌がる娘を犯すのは犯罪よ!」
「んー? 嫌がる女がイヤイヤ言いながら、快楽におぼれて行くさまが最高なんじゃないか」
デュドネは犯してきた女の子たちを思い出しながら恍惚の表情を浮かべる。
「変態! シアン様に成敗してもらうんだから!」
彩夏は鳥肌を立てながら叫ぶ。
「シアン? 奴らはこの星には来れないよ。量子コンピューターでも破れないセキュリティでロックしたからね」
勝ち誇ったように言うデュドネ。
「え……?」
青ざめる彩夏。
涼真も彩夏も研修を受けただけのただの囮である。手練れの元管理人相手には分が悪い。
「君……、可愛いね。どんな声で鳴くのかな……」
デュドネはそう言いながら右手に紫色の光を纏わせた。
「逃げるぞ! 彩夏!」
涼真はそう言って彩夏の手を握ってワープしようとした。しかし……。
「あれっ? えっ?」
ワープはできなかった。
「無駄だよ。このエリアではワープ機能をロック済みだ。逃げられちゃ困るからねぇ」
デュドネはそう言ってニヤッといやらしい笑みを浮かべる。
12.花開く巫女
くっ!
涼真は森の奥へ走り出そうとした。
しかし、デュドネは右手を彩夏に向けて振り下ろし、光る鎖を放った。鎖は紫色に蛍光し、ウネウネと動きながら飛んでくると、彩夏の周りをクルクルと回ってしばった。そして、グイッと彩夏だけ釣り上げたのだった。
「きゃぁ! 涼ちゃーん!」
「うわっ! 彩夏ぁ!」
彩夏はそのまま近くの巨木に手足をしばりつけられ、はりつけのようにされてしまった。
「止めてぇ!」
叫ぶ彩夏にデュドネは迫ると、アゴを手のひらで持ち上げ、いやらしい目でじっくりと品定めをする。
「うん、肌も瞳も合格だな……美しい。私のコレクションに加えてやろう」
「い、いやぁ!」
彩夏は恐怖にガタガタと震えながら叫ぶ。
「いいね、いいね、犯しがいのあるいい表情だ……」
そう言うと、デュドネは彩夏のボーダーのシャツをビリビリと破いた。
「いや――――!」
彩夏は必死にあがくが鎖ががっちりと手足を縛っていて身動きが取れない。
「うーん、エクセレント! いい声だ……」
デュドネは恍惚とした表情でニヤける。
「俺の彩夏に何すんだよ!」
涼真はハッキングツールを右こぶしにつめるだけ詰め込み、青白く光らせてデュドネに向けて超高速で飛びかかった。
目にも止まらぬ速さで放ったパンチ、しかし、デュドネは待ってたかのように左手でスッといなす。
そして、代わりにカウンターを涼真におみまいする。
それはさすが戦いなれた元管理者と言うべき鮮やかな返しだった。
ガスッ! という、鈍い音が森に響く。
しかし、涼真はそれを額に展開したシールドで受け、辛うじて耐えた。
大切な彩夏を穢されること、それは命にかけてでも止めねばならない。
涼真はギリッと奥歯を鳴らすと、左こぶしを光らせてデュドネの顔面を狙った。
うわっ!
デュドネは予想外の涼真の健闘に驚き、スウェーで逃げたが、目の上をかすめ血が飛んだ。
たまらずデュドネは距離を取る。
「くっ! ひよっこの分際で!」
デュドネは余裕を失い、全身を光らせると涼真に突進し、人間離れした連打でボコボコとパンチを打ち込む。必死にガードする涼真だったが、最後ボディに蹴りを叩きこまれ吹き飛んだ。
ぐはぁ!
涼真は口から血を吐きながら落ち葉を巻き上げ、ゴロゴロと転がっていく。
「あぁぁ! 涼ちゃーん!」
彩夏の悲痛な叫びが森に響く。
デュドネは肩で息をしながらニヤリと笑うと、
「君はこの娘がヒイヒイと可愛い声で喘ぐのを聞いてなさい」
と、言いながら彩夏の髪の毛をガシッとつかんだ。
「ひぃっ!」
顔を歪める彩夏。
「これから信じられないような快感に沈めてやるからな……くふふふ」
デュドネは彩夏の顔をのぞき込むと、いやらしく言い放ち、破けた服のすき間から胸に手を伸ばす。
「や、やめてよぉ! うっうっうっ……」
彩夏の嗚咽が森に響く。
「うーん、貧乳だな。胸は残念だ」
デュドネがそう言った時だった。
カチッ!
彩夏の中で何かのスイッチが入った。
「え……? 何? 今なんて言ったの?」
ゾワゾワと彩夏の心の奥底から黒い何かが湧き出し、漆黒のオーラが彩夏を包んでいく。巫女の血が開花したのだ。
「うわぁ! なんだこれは!?」
オーラはデュドネにも広がり、まとわりついていく。
「ねぇ? もう一度言ってくれる?」
彩夏の黒い瞳の奥に真紅の炎がゆらりと揺れた。
「ひ、貧乳……か? なんだよ! 本当のことじゃないか!」
デュドネは必死に漆黒のオーラをはたき落とそうと頑張る。
パーン!
彩夏を縛っていた紫の鎖が砕けちった。
「へ?」
何が起こったか分からないデュドネ。
「涼ちゃんはこの胸を『好きだ』って言ってくれたのよ!」
彩夏はデュドネの胸ぐらをつかみ、凄む。
「わ、悪かった……」
デュドネは必死にいろんなツールを起動し、彩夏を抑えようとするがことごとく起動に失敗し、対抗できずにいた。
「死ね!」
彩夏は思いっきりデュドネの股間を蹴り上げた。
グフッ!
デュドネは声にならない叫びを上げながら地面に落ちる。そして、股間を押さえたまま悶えながら落ち葉まみれになった。
13.ずっと一緒
そんな姿を睥睨した彩夏は、
「女の敵、ゆるすまじ……」
そうつぶやくと一気にデュドネとの距離を詰める。
「こっ、小娘め! 調子に乗りやがって!」
デュドネは全身を青白く光らせ、全力でもって彩夏を迎え撃つ。
全身のあちこちから放たれる漆黒のハッキング弾が彩夏めがけて襲いかかる。
彩夏は腕をピンク色に光らせ多くを払いのけたが、残りは彩夏の身体のあちこちに刺さり、ヒルのようにとりついた。そして弾からは彩夏をハックしようとする信号が出される。
直後、ボン! と爆発音がした。しかし、爆発したのはデュドネの方だった。デュドネ身体のあちこちがスパークを伴いながら次々と爆発していく。
瞳の奥に赤い炎をゆらしながらニヤリと笑う彩夏。彩夏にとりついたハッキング弾はポロポロと落ちて行く。
「ぐはぁ! な、なぜ……」
デュドネは苦悶の表情を浮かべる。
彩夏はデュドネに瞬足で迫ると、
「涼ちゃんのお返しよ!」
と、叫びながら渾身のビンタをバチコーン! とデュドネの顔面に放った。
ボロボロになったデュドネはクルクルと宙を舞い、木の幹にガン! と派手にぶつかって気を失い、落ち葉を舞いあげながら転がっていく。
「成敗!」
ハァハァと肩で息をつきながら彩夏は叫んだ。
巫女の血が目覚めた彩夏は、こうしてテロリストの制圧に成功したのだった。
◇
彩夏は涼真の所へ急いだ。
気を失ってる涼真を抱き上げ、胸でギュッと抱きしめる彩夏。
「涼ちゃん……」
彩夏は治癒の力を使って涼真のケガを一つずつ丁寧に治していく。
やがて、涼真は目を覚ます。
う?
ふんわりと柔らかく温かいものがほおに当たっている……。
目を覚ますと、破けたボーダーシャツのすき間から発達途中のふくらみがのぞいていた。
へっ!?
一気に目が覚めた涼真は上を見上げる。
「涼ちゃーん!」
彩夏は気がついたことに喜び、グリグリと涼真の顔をきつく抱きしめた。
「うわ、おわぁ……」
涼真はうれし恥ずかしで混乱して変な声が出てしまう。
「涼ちゃん、もう大丈夫よ。私、倒したから」
彩夏はそう言って転がっているデュドネを指さした。
「へ? お、お前がやったのか?」
「うん」
そう言ってうなずく彩夏。
涼真は立ち上がると恐る恐るデュドネに近づき、特殊な捕縛の鎖でグルグルと縛った。
「これでもう大丈夫だな」
涼真が彩夏を見てニコッと笑うと、
「涼ちゃん……」
そう言って彩夏は目に涙をためる。
「ど、どうしたんだ?」
彩夏は涼真の胸に飛び込み、
「恐かったの……。もうダメかと思っちゃった……」
と、さめざめと涙を流した。
「そうか……、危なかったな。役立たずでごめん……」
涼真は彩夏の髪をなでながら謝る。
「ううん……。私を守ろうという涼ちゃんの命がけの攻撃……。あれに勇気をもらったのよ」
「そ、そうなのか?」
「うん……」
そう言って、彩夏は愛おしそうに涼真の胸をスリスリと頬で感じた。
そんな彩夏を涼真はギュッと抱きしめる。
「ほんと良かった……」
涼真は心から安堵し、何物にも代えがたい幸せな心温まる時間を感じていた。
「あのね……」
彩夏がぽつりとつぶやく。
「どうした?」
「私……、もう涼ちゃんがいないとダメみたい……」
「そ、そうなの?」
涼真は妹にそんなことを言われてどうしたらいいのか困惑する。
「ねぇ……」
甘えた声を出す彩夏。
「な、なぁに?」
「ず、ずっと一緒に……いて……くれる?」
彩夏は恥ずかしげに絞り出すように言った。
『ずっと一緒』それはどう解釈したらいいのだろうか? 涼真は今、自分が人生における一番大切な瞬間に立っていることに気づいた。もし、『一生一緒』という意味であればこれはもうプロポーズなのだ。
「ず、ずっと……って?」
「ずっとはずっとよ! いつまでも……一緒に……」
やはり、そう言う意味らしい。涼真は大きく息をついて考える。彩夏のいる人生、彩夏と離れた人生、どちらがいいか……。しかし考えるまでもなかった。答えは明白なのだ。
涼真は自然とゆるむほほに自分の本心を知る。
「わかった。ずっと一緒だ。いつまでもずーっと……」
涼真は彩夏の髪にほほを寄せた。
14.限りなくにぎやかな未来
「ほんと……?」
彩夏はおずおずと涼真から離れると、おびえるようにして涼真の目を見る。
「あぁ、本当だよ」
涼真はニコッと笑って優しく彩夏のほおを撫でる。
「やっ、やったぁ!」
彩夏はこれ以上ない幸そうな表情で、涼真の胸に顔をうずめた。
涼真はもう後戻りできない決断をしたことに少し怖気づきつつも、心のままにあることが正しいことだと思い直し、じっと彩夏の体温を感じた。
すると今度は、うっうっうっ……という嗚咽が聞こえてくる。
「おいおい、どうしたんだ?」
「うれしいの……。うっうっうっ……」
涼真は湧き上がってくる愛しい気持ちが押さえられず、ギュッと彩夏を抱きしめた。
「いつかは、涼ちゃん、どこか行っちゃうって思ってたから……」
「もうどこにもいかないよ」
「うん、約束よ」
「あぁ、約束だ」
彩夏は大きく息をつくと、涼真のことをチラッと見あげる。
そして、意を決すると背伸びをして涼真のくちびるにくちびるを重ねた。
チロチロと可愛い舌が涼真のくちびるをなでる。
一瞬焦った涼真だったが、想いを押さえられず、彩夏の舌に舌をからませた。
しばらく熱い想いを確認する二人……。
しかし、二人ともどこかぎこちなく、歯がぶつかってしまい、そっと離れた。
えへへへ。
彩夏は恥ずかしそうに涼真の胸に顔をうずめ真っ赤になった。
「これ、ファーストキス……よ。軽い女じゃないんだからね!」
「そ、そうか……。良かった」
「りょ、涼ちゃんは……?」
「ははは、俺だって初めてだよ。やり方も分からないくらい」
「ふふっ、良かった」
そう言うと彩夏はチラッと涼真を見上げ、そして、もう一度くちびるを重ねてきた。
涼真は妹とこんなあからさまな事をしてることに罪悪感を覚えつつも、どんどん心の奥から湧き出してくる抑えられない熱い想いに流されるまま舌を絡めた。
◇
「いやー、ゴメンゴメン!」
シアンが光を纏いながら森の中に降りてきて言った。
「頼みますよ、殺されるところだったんですよ?」
涼真はさりげなく彩夏から離れ、文句を言う。
「でも、結果オーライでしょ?」
ニヤッと笑うシアン。
「えっ!? もしかして……、見てました?」
焦る涼真。
「見ることはできたんだけどこっちに来れなくてねぇ」
ニヤニヤするシアン。
真っ赤になって無言の二人。
「勇者と巫女の子供、どうなるかな? 楽しみだね!」
「こ、子供!? いや、ちょっと、それは気が早いですよ」
「でも、いつかは作るでしょ?」
「いや……、まぁ……」
うつむく涼真。
「私は三人欲しいなぁ……」
彩夏はうれしそうに言う。
「えっ!? そ、そんなの、母さんになんて言うんだよ?」
「あら、ママは応援してくれてるわよ。『孫はまだか』って毎日うるさいのよ」
「へ?」
唖然とする涼真。もう外堀は埋まっていたのだ。
「ははは、結婚式は金星でやろうよ」
シアンはうれしそうに言う。
「き、金星!?」
涼真が焦っていると、
「金色の花が咲き乱れる丘の上に白いチャペルが建ってるんだ。素敵だよ」
シアンはそう言って映像をパッと浮かべた。
「うわぁ、素敵!」
彩夏はノリノリで答える。
「あぁ、まぁ、彩夏がしたいところで……って、結婚……本当にするの?」
「あら、涼ちゃん! 結婚しないでどうやって一緒にいるのよ?」
ムッとする彩夏。
「いや、まぁ、そうなんだけど……、えぇ……?」
さっきまで妹だった女の子が妻になる。その急激な変化に頭が追いついていかない。
「何? 嫌なの?」
眉を寄せて口をとがらせる彩夏。
この子と一生一緒……病める時も、健やかなる時も……。
涼真はじっと彩夏を見つめる。
そして、大きく息をつくとニコッと笑って言った。
「よし! 決めた!」
そして、彩夏をお姫様抱っこすると一気に夕焼け空へと飛び上がる。
「きゃぁ!」
いきなりの事に驚く彩夏。
真っ赤な夕陽が遠くの山の稜線に沈みかけ、辺りは鮮やかな紅色に染まっている。鳥の群れが編隊を組んで飛び、雲は茜色に光っていた。
「うわぁ、綺麗……」
壮大な景色に思わず見とれる彩夏。
「彩夏……」
「な、何?」
少し身構える彩夏。
涼真は彩夏をまっすぐに見て言った。
「俺と結婚してください」
彩夏はちょっと驚き、そして、目に涙をため、両手で顔を隠した。
「ほ、本当に私で……いいの? 無理……してない?」
「彩夏がいいんだ」
すると、彩夏は大きく息をつき、ニコッと笑うと、
「はい……。お願いします」
そう言ってポロリと涙をこぼした。
「ありがとう。大切にするよ」
「うん。大好き」
そう言うと彩夏は涼真の首に抱き着き、くちびるを吸った。
それを温かく受け入れる涼真。
想いを確かめ合う二人を、深紅の夕陽が鮮やかに彩っていた。
了