どうにか下半身を落ち着かせることに成功した僕は、シャルロッタから借りたマントを腰に巻き付けることでどうにか下半身を隠すことが出来ていた。
もちろん、シャルロッタの許可を得てから行っている。
また怒られたらたまったもんじゃないからね。
確かに、さっきは痛くなかったけど、次回も痛くないとは限らないわけだし、そもそも踏んづけられたという物理的なダメージよりも、シャルロッタに僕の大事な部分を踏んづけられた、っていう……精神的ダメージが大きすぎるというか……
一応、前を隠してはいるものの……小柄なシャルロッタのマントでは僕の後ろまで隠すことは困難だった。
つまり、お尻は丸出しなわけで……
そんな僕のことを気遣ってか、シャルロッタは僕の後方を歩いている。
その小柄な体で、丸出しになっているお尻を隠してくれているようだ。
「い、命の恩人じゃからな。これぐらいは……」
そう言ってくれているシャルロッタなんだけど、その顔は真っ赤なままだ。
時折、チラチラと僕のお尻に視線を向けているような気がしないでもないけど、それを言ったらまた蹴り飛ばされかねないので、絶対に口にはしない。
そんな状態のまま森を抜けた僕とシャルロッタは、ほどなくして木の柵で覆われている一角へとたどり着いた。
「とにかくじゃ、ここで少し休ませてもらうことにするのじゃ」
「あ、はい」
3m近い木の柵の中にはこじんまりとした村があった。
門を守っている騎士らしき男達は、シャルロッタの姿を見るなり、
「しゃ、シャルロッタ様!?」
「ど、どうなさったのですか!?」
驚きと警戒の入り交じった声をあげながらシャルロッタの元へと駆け寄って来た。
警戒の声は、主に僕に向けられていたのは言うまでもない。
そりゃそうだよね……こんなでかい図体をした裸の男……怪しくないわけがない。
逆に、僕が騎士達の立場だったら、絶対に同じ事をしていたはずだ。
「うむ……山賊退治に雇った冒険者達がの、全員裏切りおったのじゃ……この者がいなかったら妾は無事にここへ戻ってこれなかったかもしれぬ」
シャルロッタはそう言うと、僕の腰のあたりをポンと叩いた。
「そ、そうだったのですか」
「で、ではこのお方はシャルロッタ様の命の恩人で!?」
シャルロッタの言葉を聞いた騎士達は、驚いたような声を上げると
「そのような方に失礼な態度をとってしまい」
「ま、誠に申し訳ありません」
そう言いながら、深々と頭をさげてくれた。
……なんだろう……謝罪してもらえるのがすごく嬉しく思えてしまう。
営業の業務をしていた時って……取引先の我が儘でひどい目に遭わされることが何度もあったけど、その無理難題をどうにかこうにかこなしたというのに、ただの一度として謝罪や感謝の言葉をもらったことなんてなかった。
『取引してやってんだから、これぐらいするのは当然』
とばかりに、いつも上から目線の態度をとられ続けてたんだよな……
あの時だって、別に謝罪してほしかったわけじゃない……ただ、一言
『ありがとう』
そう言って欲しかっただけなんだ……
そんなことを頭の中に思い浮かべながら、僕は、
「あ、頭をあげてください、僕は当然のことをしただけですので」
そう言いながら、あたふたしていたんだ。
◇◇
その後、僕は騎士達から服を提供してもらった。
大柄な僕だけど、どうにかギリギリそのサイズに見合った服があって助かった。
服を身にまとった僕は、村の中央にあるこじんまりとした邸宅に案内された。
「ここが妾の自宅じゃ。この村の役場も兼ねておる」
シャルロッタはそう言うと、僕を邸宅の一室に案内してくれた。
「きちんと名乗っておらんかったな。妾はシャルロッタ。シャルロッタ・ナリアスじゃ。このニアノ村の領主を務めておる。改めて、妾の危機を救ってくれたことにお礼を言わせてもらうのじゃ」
僕を一室に案内してくれたシャルロッタは、そう言うと深々と頭を下げた。
「いえいえ、先ほども申し上げましたように、僕は当然のことをしたまでですので」
僕は、慌てふためきながら首を左右にふっていく。
そんな僕に、シャルロッタは
「なんとも、奥ゆかしい御仁なのじゃな」
そう言うと、クスクス笑い始めた。
あぁ……シャルロッタってこんな風に笑うんだな……
僕は、今まではスマホの画面の向こうでしか見ることが出来なかったシャルロッタの笑顔を見つめながら、言葉では言い表せない幸せを感じていた。
もっとも、ゲームの中のシャルロッタと、今僕の目の前に実在しているシャルロッタは、名前と容姿がよく似ているだけの別人なんだけどね。
「で、お主の名は?」
「へ?」
「だからお主の名前を聞いておるのじゃ」
「あ、あぁ、名前ですね」
シャルロッタの言葉に、僕は一瞬戸惑った。
本名である熊野巧をそのまま名乗っても別によかったんだけど……この世界で、この名前を名乗ったら変な意味で目立ってしまわないだろうか?
現に、シャルロッタも日本風な名前じゃなくて、どこか中世ヨーロッパ風な名前なわけだし……
そんな思案を巡らせた僕は、
「あ、ぼ、僕はクマです」
そう答えるのがやっとだった。
……そうだよなぁ……咄嗟にイカした名前を思い浮かべる事が出来るほど、僕はコミュニケーション能力が高くない。学生時代のあだ名を口にするのが精一杯というか……
そんな僕の前で、シャルロッタは
「クマ殿か、うむわかったぞ。ではクマ殿よ、すぐに食事の支度をするから、ここでくつろいでいてほしいのじゃ」
そう言うと、部屋から出て行った。
気を遣ってくれたのかどうかは判断出来なかったけど、シャルロッタは笑顔で僕のことを「クマ殿」と呼んでくれた。
クマ殿か……シャルロッタにそう呼ばれるのって、悪くないな。
学生時代に侮蔑の意味をこめて言われていたのとは雲泥の差だ。
僕は、心の底からそう思った。
……さて
僕は、改めて自分の体を見回していった。
森の中で騎士達に剣で刺されたはずの箇所には、やはり傷ひとつついていなかった。
しかも、結構な時間森の中を走っていたにもかかわらず、全然疲れてもいなかった。
以前の僕であれば、ぜぇぜぇ息を切らしながら、立つこともままならなかったはずだ。
そもそも……僕は、会社からの帰路についていたはずだ。
そんな中、女の子を助けようとして車道に出てしまい……おそらくトラックにひかれたはずで……
窓を開けてみた。
通された部屋は2階だったこともあり、村を一望出来る。
この村には、シャルロッタの邸宅以外には2階建ての建物がないらしく、視界を遮る物が何一つとして存在しない。
それらの建物の大半は木製で、見慣れたコンクリートの建物は1つとして存在していない。
道には車なんかいない。
当然、信号もない。
道を歩いている人達の服装も、どこかこう……ライトノベルの世界に出てくるような中世然とした感じのものばかりだ。
そもそも、今僕が来ている服からしてそんな感じなわけだし……
これらの情報を総合して考えてみると……
僕は死んだ。
トラックにひかれて。
そして、このファンタジーン風な世界に転移してきた……ってところだろうか……
そこまで考えた僕は思わず苦笑してしまった。
「……はは……そんな都合のいい話があるわけないじゃないか……」
そもそも、僕が愛して止まなかったゲームアプリのヒロインキャラ、シャルロッタとそっくりな人まで存在しているなんて、どう考えても都合が良すぎる。
ありえない
こんな展開ありえるわけがない
……きっと夢だ、これは夢だ……そうに違いない
僕はそんな事を考えながら、ウンウンと頷いていた。
もちろん、シャルロッタの許可を得てから行っている。
また怒られたらたまったもんじゃないからね。
確かに、さっきは痛くなかったけど、次回も痛くないとは限らないわけだし、そもそも踏んづけられたという物理的なダメージよりも、シャルロッタに僕の大事な部分を踏んづけられた、っていう……精神的ダメージが大きすぎるというか……
一応、前を隠してはいるものの……小柄なシャルロッタのマントでは僕の後ろまで隠すことは困難だった。
つまり、お尻は丸出しなわけで……
そんな僕のことを気遣ってか、シャルロッタは僕の後方を歩いている。
その小柄な体で、丸出しになっているお尻を隠してくれているようだ。
「い、命の恩人じゃからな。これぐらいは……」
そう言ってくれているシャルロッタなんだけど、その顔は真っ赤なままだ。
時折、チラチラと僕のお尻に視線を向けているような気がしないでもないけど、それを言ったらまた蹴り飛ばされかねないので、絶対に口にはしない。
そんな状態のまま森を抜けた僕とシャルロッタは、ほどなくして木の柵で覆われている一角へとたどり着いた。
「とにかくじゃ、ここで少し休ませてもらうことにするのじゃ」
「あ、はい」
3m近い木の柵の中にはこじんまりとした村があった。
門を守っている騎士らしき男達は、シャルロッタの姿を見るなり、
「しゃ、シャルロッタ様!?」
「ど、どうなさったのですか!?」
驚きと警戒の入り交じった声をあげながらシャルロッタの元へと駆け寄って来た。
警戒の声は、主に僕に向けられていたのは言うまでもない。
そりゃそうだよね……こんなでかい図体をした裸の男……怪しくないわけがない。
逆に、僕が騎士達の立場だったら、絶対に同じ事をしていたはずだ。
「うむ……山賊退治に雇った冒険者達がの、全員裏切りおったのじゃ……この者がいなかったら妾は無事にここへ戻ってこれなかったかもしれぬ」
シャルロッタはそう言うと、僕の腰のあたりをポンと叩いた。
「そ、そうだったのですか」
「で、ではこのお方はシャルロッタ様の命の恩人で!?」
シャルロッタの言葉を聞いた騎士達は、驚いたような声を上げると
「そのような方に失礼な態度をとってしまい」
「ま、誠に申し訳ありません」
そう言いながら、深々と頭をさげてくれた。
……なんだろう……謝罪してもらえるのがすごく嬉しく思えてしまう。
営業の業務をしていた時って……取引先の我が儘でひどい目に遭わされることが何度もあったけど、その無理難題をどうにかこうにかこなしたというのに、ただの一度として謝罪や感謝の言葉をもらったことなんてなかった。
『取引してやってんだから、これぐらいするのは当然』
とばかりに、いつも上から目線の態度をとられ続けてたんだよな……
あの時だって、別に謝罪してほしかったわけじゃない……ただ、一言
『ありがとう』
そう言って欲しかっただけなんだ……
そんなことを頭の中に思い浮かべながら、僕は、
「あ、頭をあげてください、僕は当然のことをしただけですので」
そう言いながら、あたふたしていたんだ。
◇◇
その後、僕は騎士達から服を提供してもらった。
大柄な僕だけど、どうにかギリギリそのサイズに見合った服があって助かった。
服を身にまとった僕は、村の中央にあるこじんまりとした邸宅に案内された。
「ここが妾の自宅じゃ。この村の役場も兼ねておる」
シャルロッタはそう言うと、僕を邸宅の一室に案内してくれた。
「きちんと名乗っておらんかったな。妾はシャルロッタ。シャルロッタ・ナリアスじゃ。このニアノ村の領主を務めておる。改めて、妾の危機を救ってくれたことにお礼を言わせてもらうのじゃ」
僕を一室に案内してくれたシャルロッタは、そう言うと深々と頭を下げた。
「いえいえ、先ほども申し上げましたように、僕は当然のことをしたまでですので」
僕は、慌てふためきながら首を左右にふっていく。
そんな僕に、シャルロッタは
「なんとも、奥ゆかしい御仁なのじゃな」
そう言うと、クスクス笑い始めた。
あぁ……シャルロッタってこんな風に笑うんだな……
僕は、今まではスマホの画面の向こうでしか見ることが出来なかったシャルロッタの笑顔を見つめながら、言葉では言い表せない幸せを感じていた。
もっとも、ゲームの中のシャルロッタと、今僕の目の前に実在しているシャルロッタは、名前と容姿がよく似ているだけの別人なんだけどね。
「で、お主の名は?」
「へ?」
「だからお主の名前を聞いておるのじゃ」
「あ、あぁ、名前ですね」
シャルロッタの言葉に、僕は一瞬戸惑った。
本名である熊野巧をそのまま名乗っても別によかったんだけど……この世界で、この名前を名乗ったら変な意味で目立ってしまわないだろうか?
現に、シャルロッタも日本風な名前じゃなくて、どこか中世ヨーロッパ風な名前なわけだし……
そんな思案を巡らせた僕は、
「あ、ぼ、僕はクマです」
そう答えるのがやっとだった。
……そうだよなぁ……咄嗟にイカした名前を思い浮かべる事が出来るほど、僕はコミュニケーション能力が高くない。学生時代のあだ名を口にするのが精一杯というか……
そんな僕の前で、シャルロッタは
「クマ殿か、うむわかったぞ。ではクマ殿よ、すぐに食事の支度をするから、ここでくつろいでいてほしいのじゃ」
そう言うと、部屋から出て行った。
気を遣ってくれたのかどうかは判断出来なかったけど、シャルロッタは笑顔で僕のことを「クマ殿」と呼んでくれた。
クマ殿か……シャルロッタにそう呼ばれるのって、悪くないな。
学生時代に侮蔑の意味をこめて言われていたのとは雲泥の差だ。
僕は、心の底からそう思った。
……さて
僕は、改めて自分の体を見回していった。
森の中で騎士達に剣で刺されたはずの箇所には、やはり傷ひとつついていなかった。
しかも、結構な時間森の中を走っていたにもかかわらず、全然疲れてもいなかった。
以前の僕であれば、ぜぇぜぇ息を切らしながら、立つこともままならなかったはずだ。
そもそも……僕は、会社からの帰路についていたはずだ。
そんな中、女の子を助けようとして車道に出てしまい……おそらくトラックにひかれたはずで……
窓を開けてみた。
通された部屋は2階だったこともあり、村を一望出来る。
この村には、シャルロッタの邸宅以外には2階建ての建物がないらしく、視界を遮る物が何一つとして存在しない。
それらの建物の大半は木製で、見慣れたコンクリートの建物は1つとして存在していない。
道には車なんかいない。
当然、信号もない。
道を歩いている人達の服装も、どこかこう……ライトノベルの世界に出てくるような中世然とした感じのものばかりだ。
そもそも、今僕が来ている服からしてそんな感じなわけだし……
これらの情報を総合して考えてみると……
僕は死んだ。
トラックにひかれて。
そして、このファンタジーン風な世界に転移してきた……ってところだろうか……
そこまで考えた僕は思わず苦笑してしまった。
「……はは……そんな都合のいい話があるわけないじゃないか……」
そもそも、僕が愛して止まなかったゲームアプリのヒロインキャラ、シャルロッタとそっくりな人まで存在しているなんて、どう考えても都合が良すぎる。
ありえない
こんな展開ありえるわけがない
……きっと夢だ、これは夢だ……そうに違いない
僕はそんな事を考えながら、ウンウンと頷いていた。