刹那の沈黙を月瀬が破る。


「さっきなんて言おうとしたの?」

「さっき……?」

「夏野に。告白するつもりだったんだよね。なんて言おうとしたの?」

「……っ」

「後悔、してるんでしょ」


 私が言葉を呑み込んだこと、月瀬はわかったみたいだった。その言葉を待つ月瀬の瞳が僅かに揺らぐ。波のように。水を映し出すように。

 そこにいるのは月瀬で、夏野ではない。だけど。


「『夏野のことが好き』」


 ずっと心の中に留めておいた想いを。私は、伝えた。

 本当に伝えたかった人には届かない。けど、沈滞した膿が解けていくみたいに、封じた二文字が心からすっと抜けていった気がした。

 結局、私の後悔はこの半年で形を変えていたということだろうか。告白できなかった後悔が、気持ちの行き場を失った後悔に。


「ありがとう」


 吐息まじりでこぼした感謝を受け止めるように、月瀬が笑った。というより微笑み……ううん、ただ口角を上げただけって感じ。

 でも私は、月瀬のそんな表情を見るのが初めてだったから、笑顔と錯覚してしまった。

 それは穏やかで優しい色を持っていた。