私は立ったまま口を開く。
「私ね、卒業式の日に倒れたの。それで目が覚めたらここにいた。なんだろう、これ。夢かと思ったけど、夢じゃないよね」
「さあ。少なくとも俺は現実を生きていたはずだけど。タイムスリップとか?」
「かもね。でも、やり直せないなら意味がない。私、本当はさっき夏野に告白するつもりだったの。でもできなかった。この後、夏野は狭山さんと付き合うことになるよ」
「予言?」
「違う。事実」
「……後悔しているってこと?」
うん、とは言えなかった。うんと認めても、後悔が消えるわけじゃない。あの夏に戻っても、私はあの日のわたしに「好き」と言わせられなかった。
結局、後悔を積み重ねただけ。無情な神様によって、後悔する瞬間をまじまじと見せつけられた感じ。
しんと静まり返った夜。だけど、遠くからはクラスメイトの声が聞こえる。静と動の境界線がどこにあるかなんてわからない。
ふと、水音が響いた。バシャーンというよりはドボン。
重いものが水に落ちたような、その音に誘われて振り向けば、プールサイドから月瀬の姿が消えていた。代わりに水が大きく揺れる。
月の恍惚とした光に照らされて、水の中から月瀬が顔を出した。