たった二文字が言えなくて、ずるずると一年片想いを続けてきた。けど。

 月夜に照らされた、物憂げな君の横顔を見た瞬間。のどに詰まって吐き出せなかったその二文字が、なぜか出そうになった。

 そして、そこにいるわたしも言おうとしている。


「夏野、あのさ……」

「あ、いた。夏野! ちょっと来て」


 わたしの言葉を遮る声が届いた。フェンスの向こうからクラスの女子が夏野を呼ぶ。


「なにー? ……あ、吉葉、何か言おうとした?」

「ううん。私は後で大丈夫。行ってきて」


(ダメ!)


 私は思わず飛び出した。立ち上がってプールサイドを歩く夏野の前に。

 ダメなの。今じゃないとダメなの。後はないの!

 だけど、夏野は私の横を通り過ぎた。まるで私が見えていないかのように……。


 これが、あの夏に囚われている私の後悔。

 このすぐ後、狭山さんに告白されて夏野は彼女と付き合う。私の恋は、想いを伝えられずに終わった。

「好き」そのたった二文字は、私の中に永遠に封印された。