高校最後の夏休み。八月十七日、クラスで思い出を作りたくて学校に集まった。

 まだ卒業するまで半年以上あるけど、その残りの期間はみんな将来のために尽くす。だから、思い出作りをできるのは今しかない、と有志の子たちが呼びかけてくれた。

 みんなで校内ツアーをして、思い出を語ったり写真を撮ったり。タイムカプセルを作って先生に託し、十年後にまた集まろうと約束をした。

 その後、自由時間を与えられたから、私は夏野を誘ってプールに来た。

 なんでプールかって?

 だってここは、私たちにとって一番思い出深い場所だから。


 私が夏野を好きになったのは、去年の夏。私と夏野は水泳部に所属していた。

 人生最大の苦節は? と訊かれたら、間違いなく去年の夏のことを答える。

 その頃の私は、思うような結果が出せず悩んでいた。泳ぐたびにタイムが落ちていく。負のループ。焦りだけが募っていた、そんな私を支えてくれたのが夏野だった。

 三姉妹の長女の私は、おねだりや甘え方を知っている下二人の妹と違って媚の売り方も知らずに育ってしまったから、誰かに「頼る」のは弱さだと思っていた。

 だから、自分でなんとかしなきゃと思って、溢れる涙も一人で処理していた。

 そんな私に気づいてくれたのが夏野。

 頼るのは悪いことじゃない。そう教えてくれた。夏野に惹かれるのは自然の流れだったように思う。