目が覚めた私がいたのは、水面に月が浮かぶ学校のプール。二十五メートル六レーンのプールを見渡すように佇んでいた。

 これは、なに? さっきまで校舎にいて、これから卒業式を迎えようとしていたはず。だけど意識が混乱して倒れて……。

 じゃあこれは、私が見ている夢? それとも……。


「泳ぎたーい」

「泳いじゃう?」

「制服で? ダメだよ」


 声が聞こえてきて、胸騒ぎが起こる。夜のプールにしんと響く、聞き覚えのある声と会話。

 たった今、プールサイドに出てきた二人の姿を確認して、私は思わず隠れた。教員用出入口に続く四段ばかりの階段で、息を殺すように……。

 なんで……? 当然のように浮かぶその疑問に答えてくれる者は誰もいない。

 だけど、そこにいる人物たちは間違いなく、夏野とわたし。夏服を着ている。

 これは夢?

 それにしては妙にリアルで。夏の夜風が頬を撫でる。


 二人は、スタート地点からおおよそ半分の位置に当たる場所に腰を下ろし、足をプールに投げ入れた。

 ピチャピチャと音を立て、凪の水が波紋を起こすとやがて小さな波を作る。


「私たち、もう受験生なんだよね」

「何を今さら」

「夏野は国立狙うんでしょ? すごいなぁ」

「そんなことねぇよ。やりたいことが決まってる吉葉の方がすごい。保育士だっけ?」

「うん」


 憶えている。雰囲気にあてがわれて進路のことを話した。

 そしてこの後、夏野がなんて言うかも憶えている。


「寂しくなるな」


これはあの夏の記憶。私が囚われ続けている、あの夏の日の出来事。