不意に、月瀬の手が伸びてきて。私の頬に触れる。

 やっぱりひんやり冷たい手。あのときは、幽霊かどうか確かめるために触った。今は……。


「触れるね」

「うん……?」


 なんだろう?


「後悔するのは、悪いことじゃない」

「……うん」

「でも、なるべく後悔しないで生きたいよね」

「うん」

「……俺も」

「……?」

「このままだったら後悔するかな」


 呟くように言って、視線を下げた月瀬。ゆっくりと落ちていく手が、物悲しさを含んでいるような気がした。

 だけど、次に顔を上げたとき。凪ぐ海が波を立てたみたいに、意思を持つ。


「俺、吉葉のことが──」


 私をあの夏にとらえた枷。だけど、その枷が今度は私をあの夏から解放してくれる。



「好き」




-完-