「なんだよ、それ」
「出かけてたの?」
場にそぐわない会話をみんなが笑い飛ばす。
夏野も、夏の日差しのような笑顔を見せている。眩しいけど目を背けたくない、その笑顔が私は好きだった。
だけどもう、太陽には惹かれない。まだざわつく心もいつかは消える。卒業して次に会うときにはもう、思い出の一ページになっている、そんな予感がする。
みんなが出ていった保健室に、月瀬だけが残った。
「ずっと憶えていたの?」
「うん。一生忘れないような体験だったから」
「……ずっと、見守ってくれていたの?」
「どうだろ」
思い出したことがある。月瀬と図書室で勉強をした日、私は手を繋ぐ夏野と狭山さんを見ていた。月瀬に声をかけられたのは、ちょうどそのときだった。
私が後悔している間、ずっと……。自分だけが持つあの夏の記憶を心に留めて。月瀬ははぐらかしたけど、やっぱり見守ってくれていたんだよね。
じゃなきゃ、ほぼ他人のクラスメイトを誘ったりしないし、私が倒れたときも真っ先に駆け寄ったりできない。
「月瀬ありがとう。私、また後悔するところだった」
あのとき、引き止めて告白していれば……。その後悔に囚われて、私は月瀬を見失うところだった。
あの夏に戻ったのは、やり直すためでも後悔を見せつけるためでもなく、すぐ傍で見守ってくれている君の存在を気づかせるための神様からのメッセージ。だったのかもしれない。