フィジビリティスタディ

「シュトゥーバは国鉄きってのエリートなんですよ。国費で留学して、アメリカの指導教授に大学に残らないかと誘いを受けても、それを蹴って、戻ってきたという逸話のある人です。まあ、この国の人は、優秀であればあるほど、この国には戻ってこない。ブレイン・ドレインってやつですよ。結局経済は人が運営するものだから、優秀な人が流出することが、この国の発展途上の一因にもなっていると思うんですよ。華僑や印僑ほどではないとは思うんですが・・・」
 丸山は土木が専門の理系だが、経済についても良く話す。ときどき、感心させられることもあった。根がおしゃべりなようで、耳学問は豊富なようだった。
 丸山が言った通り、十五分程度で目的地に着いた。丸山はまた領収書を財布にしまった。
「すごい領収書ですね」
と丸山の手元をのぞき込み、土岐は労うように声を掛けた。
「いやあ、業務命令で、とにかく領収書をかき集めろと言われています。国税庁や税務署がうんざりして集計間違えを繰り返し、二度と査察したくなくなるほどたくさん集めるようにと言われています。・・・まあ、半分冗談だとは思うんですがね」
 タクシーが去ると、二人は暗闇の中に取り残された。足元に草や小石の凹凸があり、一瞬、自分の存在位置が分からなくなって、平衡感覚を失った。上映途中の映画館に入ったばかりのときのように闇に慣れるのに時間を要した。雲が月明かりや星明りを遮蔽しているようで、遠い首都中心部の夜光が低い雲の底をぼんやりと照明しているのが、目を凝らして見るとようやく確認できた。
「こっち、こっち」
と丸山の声がした。かろうじて彼の立ち姿が見えるような気がした。彼のおぼろげな頭部が揺れた瞬間、そのあたりに小さな窓明かりのようなものが見えた。
「たぶん、あの家だと思います。ぼく、昼間、一度来たことがあるんです」
 そういう丸山の声のする方に近づいて行くと、ようやく事物の輪郭がこんもりとした塊として認識できるようになった。不意に、縦長の長方形の扉の灯りがドアを開く音とともに目に飛び込んできた。その中に真っ黒な人影が影絵のように立っていた。
「グッイブニン」
と丸山が大声で快活に言うと、痩身の黒い影は、
「ウェルカム」