フィジビリティスタディ

「あの人、外務省からの天下りなんですよ。ご両親か父親が台湾出身で、外務省に入るために帰化したとも言われています。いわゆる内省人で、台湾では上流の家庭だったようです。戦後も、日本に留学するまでは、家庭内は日本語だったそうで、若い頃はずいぶんと苦労されたそうです。あの人のおかげで多少、ODAが取り易くなったと評価する人も社内にいますけど・・・ノンキャリのトップまで上り詰めた人なんですけど、家が貧しくなって、入省前に通信教育でしか大学を出られなかったことを悔しがっていて、わが社に来てからはつねにキャリアなみの待遇を要求してきた人です。まあ、仕事もできるけど、それ以上に要求の多い人です。また、相手によって態度がころりと変わるのが特徴で、利用できそうな人や上司には媚びへつらいますが、そうでない人には、けんもほろろ、横柄な態度をとるという噂です。上司の信頼は厚いのですが、目をかけられていない部下からの人望はほとんどない人です。それから、人脈がすごいんです。まめなひとで、これぞと思う人とは積極的に関係作りをするひとです。年賀状を何百枚も書いたり、お中元やお歳暮を何十万円も贈るという噂です。今回も、大使館の一等書記官の白石さんや経産省からの出向の西原さんには随分と気をつかっています。気づかいばかりでなくて、お金も、ですけど・・・お金は当然、接待交際費で落とすんですけど・・・」
と丸山に言われても、頭髪につねに櫛を入れ、紳士然とした王谷の穏やかそうな表情からは想像できなかった。土岐に人を見る目がないということなのかもしれない。
 丸山の話は続いた。
「まめな付き合いのせいなんでしょうか、社内で対立することがあっても、不思議と王谷さんのかたを持つ取締役が多いんですよね。若手の間では王谷さんは不人気なんで、みんな取締役がどうして王谷さんに味方するのか不思議がっているんですよ。でも、いろいろ気遣いを受ければ人情で、なんとなくいけすかない奴とは思っていても、かたを持ってしまうということなんでしょうね。ぼくだって、盆暮れに付け届けを受取ってしまえば、何かのときに王谷さんの味方をしてしまうかもしれないですね。ただ王谷さんのすごいところは、社内外や官公庁のネットワークのキーマンを適切に押さえているところです」