「そう。私も先週来て早々に営業部長の自宅に招待されたけど、・・・彼らはどうも、われわれの日本からのお土産を期待しているようで、・・・空港で自分用に買ったスコッチを持っていたら、あまり嬉しくなさそうな顔をされたよ。それにしても、あの営業部長は、
『乗客予測をまったくやっていない』
と言うのには驚いた。彼に限らないけど、この国の人は基本的に行き当たりばったりなんだよね。あらかじめ、とか、事前に、とか、前もって、とかいう概念がないんだよね。それが発展途上のキーワードかもしれないね」
「この国の人は人種的に、アルコールを分解する酵素を肝臓に持っていない人が多いんです。だから、晩酌という習慣もないし、パーティーをやっても、彼らほとんど呑まないでしょ。だからスコッチをもらってもね・・・」
と丸山が得意げに薀蓄をたれた。中井はなるほどというふうに肯いている。
「わたしは日本のカレンダーを持ってきました。来年のものが間に合わなかったので、今年のカレンダーなんですが、・・・あと数ヶ月しかありませんが・・・」
と言いながら、土岐は中井の反応をうかがった。
「それはいい。絶対喜ばれますよ。コピー用紙を見て、分かったと思いますが、この国は紙がよくないんですよ。紙がよくなければ、当然、印刷もよくない。日本の写真印刷は、3Dで、裸眼でも彼らにとって、現物そのものに見えるんだと思いますよ」
と言う中井の表情を追いながら土岐は、この男なら多少きつい質問をしても真面目に答えてくれそうな気がした。
午後は中井の英文の報告書を精読した。疑問点があるとその都度質問した。中井はいやな顔もせずに、真摯に返答してくれた。土岐も、中井の作業を妨げないように、彼の指先が休止するのを待って声を掛けた。その間、丸山は作業所のテーブルの間を行ったり来たりして、情報を集めていた。三時ごろ、作業所の外に出て行って飲み物を調達してきた。現地生産の真黄色の分厚い瓶のジュースだった。あまり冷えていなかったので、甘味を強く感じた。かえって、喉の渇きが増したような気がした。
午後五時が終業時刻だった。どこかで間延びした気だるいサイレンが鳴っていた。鳴り止むと同時に作業所の照明が一斉に消え、窓の外が急に明るさを増した。
中井は五時すこし前に、ノートパソコンの電源をオフにしていた。丸山が帰り支度をしながら、
『乗客予測をまったくやっていない』
と言うのには驚いた。彼に限らないけど、この国の人は基本的に行き当たりばったりなんだよね。あらかじめ、とか、事前に、とか、前もって、とかいう概念がないんだよね。それが発展途上のキーワードかもしれないね」
「この国の人は人種的に、アルコールを分解する酵素を肝臓に持っていない人が多いんです。だから、晩酌という習慣もないし、パーティーをやっても、彼らほとんど呑まないでしょ。だからスコッチをもらってもね・・・」
と丸山が得意げに薀蓄をたれた。中井はなるほどというふうに肯いている。
「わたしは日本のカレンダーを持ってきました。来年のものが間に合わなかったので、今年のカレンダーなんですが、・・・あと数ヶ月しかありませんが・・・」
と言いながら、土岐は中井の反応をうかがった。
「それはいい。絶対喜ばれますよ。コピー用紙を見て、分かったと思いますが、この国は紙がよくないんですよ。紙がよくなければ、当然、印刷もよくない。日本の写真印刷は、3Dで、裸眼でも彼らにとって、現物そのものに見えるんだと思いますよ」
と言う中井の表情を追いながら土岐は、この男なら多少きつい質問をしても真面目に答えてくれそうな気がした。
午後は中井の英文の報告書を精読した。疑問点があるとその都度質問した。中井はいやな顔もせずに、真摯に返答してくれた。土岐も、中井の作業を妨げないように、彼の指先が休止するのを待って声を掛けた。その間、丸山は作業所のテーブルの間を行ったり来たりして、情報を集めていた。三時ごろ、作業所の外に出て行って飲み物を調達してきた。現地生産の真黄色の分厚い瓶のジュースだった。あまり冷えていなかったので、甘味を強く感じた。かえって、喉の渇きが増したような気がした。
午後五時が終業時刻だった。どこかで間延びした気だるいサイレンが鳴っていた。鳴り止むと同時に作業所の照明が一斉に消え、窓の外が急に明るさを増した。
中井は五時すこし前に、ノートパソコンの電源をオフにしていた。丸山が帰り支度をしながら、


