フィジビリティスタディ

と中井は手のひらを振って否定した。眼がへの字になっている。これ以上余計な作業はしたくないという中井の想いが見て取れた。それを受けて、丸山があたりをはばかるように小声で状況を説明した。
「今回はあくまでもフィージビリティ・スタディです。これでODA予算がつけば、本調査に入ります。こっちのほうが、うちの会社としても売上が十倍くらいあるんで、おいしい仕事なんですが、どっちにしても、フィージビリティ・スタディが通ってプロジェクトがゴーということにならないと、始まらない。その本調査の段階でいろんな問題が出てきて、プロジェクト・コストが増加するのが一般的で、・・・まあ、フィージビリティ・スタディは目安のようなもので、・・・儀式のようなもので・・・しかし、採算が合うように報告書で帳尻を合わせて、ODAの対象にならなければ、もとも子もない」
 そこに丸山が注文したチャーハンと焼きそばと八宝菜がそれぞれ一皿ずつ、卵スープがひと丼、それぞれのテーブルに出てきた。どのテーブルも同じボリュームだった。
 老齢のテーブルと中年のテーブルは4人ずつで、土岐を含めた若手は三人だったので、かなり満腹になった。離散集合を繰り返す蝿たちを追い払いながら、食後のデザートに杏仁豆腐を食べ、ジャスミンティーを飲みながら、土岐は丸山と今夜の打ち合わせをした。
「シュトゥーバの家はホテルからどのくらいですか」
 丸山は飲みかけた湯飲み茶碗を黒檀のテーブルに置いて答えた。
「十五分程度だと思いますけど・・・」
「それじゃあ、6時半ごろにホテルのロビーで待ち合わせますか?」
「6時半じゃ、ちょいと早いと思いますよ。この国では、バスや国鉄の時刻表もそうだけど、7時に約束するというのは、それ以前には絶対に来ないという意味なんで、待ち合わせは7時すこし前でいいと思いますよ。どっちにしても、僕たちの部屋は隣同士ですから、そのころにノックします」
 隣に座っていた中井がすこし顔をしかめたので、丸山が彼に説明した。
「実は今夜、財務副部長のシュトゥーバに夕食に自宅へ招待されていまして、土岐さんはきのう来たばかりで、ここは不案内だろうってんで、ぼくがエスコートすることになったんです」