フィジビリティスタディ

「でも、乗客予測はきわめて重要で、例えば車両台数は、朝のラッシュ時の乗客のピークに合わせて発注しなければならないし、時刻表も含めて、運行スケジュールや車両編成や人員の配置も、それで決まってしまう」
と言いながら、丸山は一番奥のテーブルで現地のタバコをふかしている山田を指差した。
「あの目尻の下がった縁なし眼鏡の人、あの山田さんがその担当なんですが、・・・この国の8時始業の制度を、会社と学校で1時間ずらすだけで、必要な車両数が随分違うとぼやいていました。まあ、受注予定の日本の車両製造会社は、ずらさないほうが商売になるでしょうけど・・・」
「そうですか。プロジェクトの採算があやしくなったら、わたしのほうでコメントすることにします」
と中井が言う。
 その指摘は土岐にとっては発見だった。乗客が一日中均等に流れれば、全体の乗客数が同一であったとしても、必要となる車両台数も運転手の人数も最少となる。しかし、同数の乗客が朝と晩の一定の時間帯に集中すれば、それに合わせて車両台数も乗務員も用意する必要がある。ラッシュの程度がきつければ、かなり増加させなければならない。
「あと、乗車運賃の変化による乗客数の変化や、経済発展によるモータリゼーションの効果についての話がなかったように思ったんですが・・・」
 この質問には中井は苦虫をつぶしたような顔をした。
「それは分かっているんだけど、それをやるときりがないんでね。並行して走っているバスの運賃の問題もあるし・・・どこかで捨象しないと、報告書がエンドレスになる」
 そこに丸山が待っていたように口をはさんだ。
「いやむしろ、運賃の問題は財務分析に残しておいた方がいいんじゃないですか。運賃設定を工夫すれば、いろんな画を描けるでしょう」
「それは、確かにそうですが・・・ベースとなる計量分析資料がないと、単なる作文になってしまうので、せっかく皆さんが積み上げてきたコスト見積もりが、画餅になってしまうことを恐れます」
と土岐は大学院生のような心持で主張した。数年前までの大学院の教室で学友たちと論議していたときの心象風景がよみがえってきた。
「いやあ、そこまで、厳密に考えなくても・・・」