フィジビリティスタディ

 小顔のその男は机の引き出しの鍵をあけて、国鉄省の財務副部長の名刺を出した。土岐も扶桑総合研究所の名刺を渡した。不等価交換と思われるほど彼の名刺の紙質も印刷も悪かった。年齢は土岐よりやや上か同じぐらいに見えた。痩身で、黒褐色のくすんだ肌をしていた。握手を求めた手のひらが異様に白かった。名前はカッシー・シュトゥーバという。カッシーが名で、シュトゥーバが姓だと自己紹介した。姓の方は名刺を見ると語尾がBAとなっていたが、シュトゥーパとも聞こえた。パとバの中間のような発音だった。彼の英語は現地人の訛りがあまり強くないのが救いだった。なんとか、英語で意思の疎通ができそうな気がした。
「今日のところは表敬訪問ということで・・・」
と丸山はその場を去ることを申し出た。帰り際に、シュトゥーバが、
「今夜の夕食に自宅に招待したい」
と土岐を誘ってきた。速答する前に、丸山に意見を聞こうとすると、
「ミスター・マルヤマも一緒にどう?」
とそれを察知したかのように、シュトゥーバが言う。今度は、丸山が土岐の意見を聞こうとしてきた。そのまえに、
「一緒にいいですか?」
と土岐のほうから丸山を誘った。この街は不案内なので土岐はそのほうが安心だ。
「それじゃ、今夜7時に」
と言うシュトゥーバの声を半身になって聞きながら、二人はその部屋を出た。
 土岐はプレハブのような作業所に戻ると、入り口に一番近いテーブルの上のノートパソコンにコードをセットし、コンセントを探した。正面に座った丸山が心配そうに声を掛けてきた。
「コンバーターもって来ましたか?」
 周波数の違うことは、日本を出発する前に調べ、家電量販店で買い求めて来ていた。
「メモリーはUSBにしておいた方がいいと思います。電力事情が悪くて、停電がしょっちゅうあるのと、雷が良く落ちるので、ゴロゴロっときたらすぐ上書き保存して、USBを抜いた方がいいですよ」
 世話女房のような響きのある丸山の忠告は一つ一つ快く聞くことにした。隣では中井があいかわらず、英文ワープロを打ち続けている。彼の作業が一区切りしたところで、土岐は中井に声を掛けた。
「あのう、原稿はもう大体できているんですか?」
「ええ、いま清書しているところなんで、下書きの方は、コピーをとってもいいですよ。質問があれば、今日中にもらえるとありがたい」
と中井が下書きの原稿を差し出した。