と丸山が、出入り口から近い机に座っている中年の男の傍らに立った。
「こちらは、トランスポート・エコノミストの中井さんです」
と丸山に紹介された男は、ノートパソコンで英文を打っていた。両手を窮屈そうに蟹の足のようにキーボードに這わせ、せわしなくカチャカチャと音を立てている。見事なタッチタイピングだった。その手が切りのいいところで宙に浮いた。
「中井です。土岐さんですね。待ってました。これを書き上げたら、私、東ヨーロッパに飛ばなきゃならないんで、これを読んでいただければ、分かると思うんですが、乗客予想については、午後にでも説明させてください」
と言いおえると、時間を惜しむように、再びキーボードを叩き始めた。額の毛がかなり後退しているが、もともと額が広いせいもあって頭髪の薄いほどには年齢が行っていないように見えた。地味な顔立ちから、ひなびた地方公務員のような印象を受けた。土岐は、キーボードの脇に扶桑総合研究所でもらった名刺を置いた。すると中井はワイシャツの胸ポケットから名刺を取り出した。
〈中井富士夫・輸送コンサルタント〉
とあった。
「とりあえず、机は中井さんと共用してください」
と丸山が言う。そのテーブルに荷物を置いた。その隣のテーブルには四人が中腰で大きな図面を広げてなにやら協議していた。
「みなさん、こちら土岐さんです。財務分析のスペシャリストです」
と丸山が、4人の協議を中断させて、右回りに一人一人紹介を始めた。
「こちらは電気関係の責任者で、松山さんです。その隣が、電信関係の浜田さん。次が、信号関係の畠山さん。最後が、電化エンジニアの川野さんです」
丸山に紹介されるごとに、皆が土岐に小さく頭を下げた。松山は小柄で華奢な体躯から公家のような印象がある。浜田はカマキリのように細面で顎が尖り、眼鏡の奥の眼光が鋭く、理系の学者のような雰囲気を持っている。畠山は肩幅が広く、顔の造作も大雑把でえらがはり、頭髪も逆立っていて、豪放磊落な豪傑のように見えた。川野は顔の造りがのっぺりとしていて、純朴そうな表情から第1次産業の従業者のような感じを受けた。
土岐は一人一人に名刺を手渡した。声音は聞こえてこないが、みな口の中で、
「よろしく」
と言っているようだった。4人を代表して、度の強い遠視眼鏡を掛けたうりざね顔の松山が関西なまりでおだやかに言った。
「こちらは、トランスポート・エコノミストの中井さんです」
と丸山に紹介された男は、ノートパソコンで英文を打っていた。両手を窮屈そうに蟹の足のようにキーボードに這わせ、せわしなくカチャカチャと音を立てている。見事なタッチタイピングだった。その手が切りのいいところで宙に浮いた。
「中井です。土岐さんですね。待ってました。これを書き上げたら、私、東ヨーロッパに飛ばなきゃならないんで、これを読んでいただければ、分かると思うんですが、乗客予想については、午後にでも説明させてください」
と言いおえると、時間を惜しむように、再びキーボードを叩き始めた。額の毛がかなり後退しているが、もともと額が広いせいもあって頭髪の薄いほどには年齢が行っていないように見えた。地味な顔立ちから、ひなびた地方公務員のような印象を受けた。土岐は、キーボードの脇に扶桑総合研究所でもらった名刺を置いた。すると中井はワイシャツの胸ポケットから名刺を取り出した。
〈中井富士夫・輸送コンサルタント〉
とあった。
「とりあえず、机は中井さんと共用してください」
と丸山が言う。そのテーブルに荷物を置いた。その隣のテーブルには四人が中腰で大きな図面を広げてなにやら協議していた。
「みなさん、こちら土岐さんです。財務分析のスペシャリストです」
と丸山が、4人の協議を中断させて、右回りに一人一人紹介を始めた。
「こちらは電気関係の責任者で、松山さんです。その隣が、電信関係の浜田さん。次が、信号関係の畠山さん。最後が、電化エンジニアの川野さんです」
丸山に紹介されるごとに、皆が土岐に小さく頭を下げた。松山は小柄で華奢な体躯から公家のような印象がある。浜田はカマキリのように細面で顎が尖り、眼鏡の奥の眼光が鋭く、理系の学者のような雰囲気を持っている。畠山は肩幅が広く、顔の造作も大雑把でえらがはり、頭髪も逆立っていて、豪放磊落な豪傑のように見えた。川野は顔の造りがのっぺりとしていて、純朴そうな表情から第1次産業の従業者のような感じを受けた。
土岐は一人一人に名刺を手渡した。声音は聞こえてこないが、みな口の中で、
「よろしく」
と言っているようだった。4人を代表して、度の強い遠視眼鏡を掛けたうりざね顔の松山が関西なまりでおだやかに言った。


