フィジビリティスタディ

 丸山はドアの上の把手にしがみついている。車の振動に声が震えている。
「この国の始業時刻は8時なんですよ。ほかの方は毎朝7時ごろ事務所に向かっています。国鉄の連中には、日本人は噂どおり勤勉だという評価を得ていますが、・・・ただ、朝早く目が覚めるというだけのことなんですがね。ホテルの部屋にテレビはあるけれど、衛星放送がなくって、地元の番組だけだから、見ても分からないし・・・なんせ、メンバーの平均年齢は、ぼくを含めても六十近いですから・・・」
「そう、経験豊富なベテランばかりだ・・・あんたらを除けば・・・」
と王谷が唐突に会話に割り込んできた。あまりにも不意だったので、王谷の言辞の真意を理解するのにすこし時間を要した。頬に深い縦皺の走る王谷の横顔を盗み見ると澄ました顔をしていた。
 タクシーは5分すこし走って、小高い丘の麓に停車した。丘の上にはモルタル造りの古びた3階建てのビルが立っていた。
「この坂を上ってくれ」
という王谷の要求で、タクシーはすこしバックしてから左折し、息を切らせるようにして急な坂をやっと登った。その坂のアスファルトには太い亀裂が走り、裂け目に陥ったタイヤが一瞬空回りした。いき絶え絶えに上り詰めた丘の上には平らな空間が広がり、国鉄省の正門の前に巨木が聳えていた。三人はそこで降りた。土岐が国鉄省の建物の正面玄関に歩き出したとき、丸山がうしろから声を掛けてきた。
「あ、土岐さん、こっちです」
 見ると、王谷は土岐に頓着することなく、国鉄省の蒼然とした建物とは反対方向に歩いていた。その先に、プレハブ小屋のような建付けの悪そうな灰白色の平屋があった。一辺が十五メートルほどの方形に見えた。出入り口は引き戸で、先に王谷がそれを軋ませて入って行った。その後に、丸山と土岐が続いた。内部は薄暗い作業場のような空間だった。大工の手造りのような方形の大きなテーブルが四つあり、それを取り囲むようにして、四つずつ籐製の椅子が配してあった。三つの机の周りに初老や中年の人々が、計算尺やノートパソコンや参考書や計算用紙を取り散らかして、立ったり座ったりして作業をしていた。一瞬、老人ホームを連想したが、良く見ると半分近くは初老か中年の男だった。皆一様に、半袖の白いワイシャツを着用し、カーキ色やベージュ色や鼠色の長パンに細めのベルトを巻きつけていた。
「メンバーを紹介しましょう」