フィジビリティスタディ

「来る時はビジネスだったじゃないの。わしはファースト・クラスでなければいやだというわがままを言っているんじゃないんだよ。いやしくも日本のコンサルティング・チームのマネージャーとしてきているんだから、それなりの待遇でないと、君たちも立場がないだろうという意味なんだ。まあ、たとえはよくないかもしれんが、日本の代表として日本の総理大臣が外国で粗末な扱いを受ければ、それは日本国民全員が粗末な扱いを受けるのと同じだということなんだ。実際、ファースト・クラスで移動すると、現地の重要人物と同席する確率が高くって、それが営業に繋がることもよくある。ビジネス・クラスで、現地のビジネスマンと知り合いになっても、ACIの利益にはならんだろうが・・・」
 王谷の口調は、聞き流せば慇懃のようではあるが、押し殺したような怒気が込められていた。
「承知しています。帰りの便は大丈夫です。なんどもコンファームしましたから・・・」
と丸山は幾度も頭を下げ、王谷に見えないように土岐のほうを向いてすこし舌を出した。王谷に甘えているようにも見えた。その丸山に土岐は帰りのエアチケットを手渡した。
 朝食の間、王谷から土岐に話しかけてくることはなかった。王谷はチームをマネージするよりも、隠然としてチームにマネージャーとして担ぎ上げられようとしているように見えた。土岐が王谷に当たり障りのない質問をすると、丸山がそれを横取りして答えた。王谷はその返答を補足することもなかった。小者は無視するという風情があった。
 食事を終えると、勘定書きに丸山が部屋番号を記入して、サインした。
 朝食を終えてすぐ、現地国有鉄道の作業所にタクシーで向かうことになった。土岐は一旦自室にもどり、ノートパソコンや筆記用具や電卓の入ったショルダーバッグを持ってホテルのエントランスに引き返した。フロントで日本円を現地通貨に両替しているとき、王谷と丸山はすでに、タクシーに乗り込んでいた。丸山は後部座席の左側に、王谷は助手席に座っていた。土岐が乗り込んで、ぐらつくドアを引き寄せるとタクシーは急発進した。
「ここでは、助手席が上座なんですよ。日本ではわたしの席が上座なんですけどね・・・」
と丸山が言い訳のように言う。
 土岐は他のメンバーが気になっていた。
「他の方は、もう事務所に行かれたんですか?」