の人物が何者かという疑問は消えかけていた。初めての海外旅行の興奮が、土岐の神経を高ぶらせ、その関心を頭の隅に押しやっていた。 それから部屋に戻ってシャワーを浴び、短パンとTシャツでベッドの上に横たわった。荷物を最小限にするため、寝巻きは持参してこなかった。
初めての空の旅で興奮していたせいか、時差のせいか、機内で多少睡眠をとったせいか、なかなか寝付けなかった。5千キロ以上も離れた八王子の郊外で、母が一人で無事でいるかどうか心配だった。
(急に倒れたとき、周りには誰もいない。119に電話できるか、隣家に助けを求められればいいが、そうでなければ孤独死を迎える。母の労苦に何一つ応えることなく、母に死なれたら、後悔の思いは死ぬまで続くに違いない)
そんなことを考えていると、ますます寝付けなくなった。空調の微調整が利かないことも一因だったかもしれない。目盛り一つを下げればやや肌寒く、一つ上げれば首の周りにすこし蒸し暑さを感じた。
五 現地第2日目
ドアをためらいがちにノックする音で、土岐はいつの間にか自分が寝入っていたことを知った。
「丸山です。お早う御座います。起きてますか?」
と内部をうかがうような声がする。ベッドから跳ね起きて、ドアをすこし開けた。丸山が吹き抜けのガラス天井から溢れる陽光の中に腫れぼったい細い目をして、にこやかに立っていた。
「あ、おはようございます。昨晩はいろいろありがとうございました」
と土岐は昨夜の礼を言いながら、彼の目が土岐の短パンと裸足を捉えたことに気付いた。
「これから朝食を取るところですが・・・よろしかったら一緒にどうですか?いまさっき、プロジェクト・マネージャーもレストランに降りていったところです」
「すぐ、うかがいます」
と土岐が答えると、丸山はエレベーターホールの方へ向かって行った。土岐は急いで歯を磨いて顔を洗うと、チノパンツと開襟シャツに着替え、帰りのエアチケットをポケットに入れて、一階のレストランに降りて行った。
白い円形のテーブル席を見渡すと、すぐ近くに特徴のあるウエーブのかかった丸山の頭髪が見つかった。土岐は、近寄って改めて挨拶をした。
「おはようございます」
丸山の隣に紳士然とした小柄な初老の男が座っていた。丸山が座ったままで、紹介してくれた。
「こちら、プロジェクト・マネージャーの王谷さんです」
初めての空の旅で興奮していたせいか、時差のせいか、機内で多少睡眠をとったせいか、なかなか寝付けなかった。5千キロ以上も離れた八王子の郊外で、母が一人で無事でいるかどうか心配だった。
(急に倒れたとき、周りには誰もいない。119に電話できるか、隣家に助けを求められればいいが、そうでなければ孤独死を迎える。母の労苦に何一つ応えることなく、母に死なれたら、後悔の思いは死ぬまで続くに違いない)
そんなことを考えていると、ますます寝付けなくなった。空調の微調整が利かないことも一因だったかもしれない。目盛り一つを下げればやや肌寒く、一つ上げれば首の周りにすこし蒸し暑さを感じた。
五 現地第2日目
ドアをためらいがちにノックする音で、土岐はいつの間にか自分が寝入っていたことを知った。
「丸山です。お早う御座います。起きてますか?」
と内部をうかがうような声がする。ベッドから跳ね起きて、ドアをすこし開けた。丸山が吹き抜けのガラス天井から溢れる陽光の中に腫れぼったい細い目をして、にこやかに立っていた。
「あ、おはようございます。昨晩はいろいろありがとうございました」
と土岐は昨夜の礼を言いながら、彼の目が土岐の短パンと裸足を捉えたことに気付いた。
「これから朝食を取るところですが・・・よろしかったら一緒にどうですか?いまさっき、プロジェクト・マネージャーもレストランに降りていったところです」
「すぐ、うかがいます」
と土岐が答えると、丸山はエレベーターホールの方へ向かって行った。土岐は急いで歯を磨いて顔を洗うと、チノパンツと開襟シャツに着替え、帰りのエアチケットをポケットに入れて、一階のレストランに降りて行った。
白い円形のテーブル席を見渡すと、すぐ近くに特徴のあるウエーブのかかった丸山の頭髪が見つかった。土岐は、近寄って改めて挨拶をした。
「おはようございます」
丸山の隣に紳士然とした小柄な初老の男が座っていた。丸山が座ったままで、紹介してくれた。
「こちら、プロジェクト・マネージャーの王谷さんです」


