フィジビリティスタディ

「それから、朝は水の出があまりよくないんで、シャワーを浴びるなら、今夜にしてください。いろいろ、日本では当たり前のことが、ここでは当たり前でないことが多いので、分からないことがあったら、ぼくに聞いてください。ちなみに、ぼくのルームナンバーは714です。土岐さんの部屋は715になっています」
「いろいろとありがとうございます」
 丸山の口調から、彼が現地の庶務を担当しているような感触を得た。いろいろと気働きに長けた男のような印象を受けた。
「あれが、ぼくらのホテルです。メンバー全員が逗留しています」
と丸山が指差す右ななめ前方に、薄ぼんやりと闇夜に屹立する不夜城のような高楼が見えてきた。客室の明かりが虫食いのクロスワードパズルのように漆黒の中空に点在していた。
 タクシーはもぐり込むように、天井の低いホテルの車寄せに滑り込んだ。玄関はめくるめくような黄ばんだ電飾にあふれていた。ベルボーイがトランクの後ろに駆け寄り、トランクの蓋があがると、土岐のスーツケースを取り出して、エントランスからフロントまで運んだ。丸山がタクシー料金を支払い、領収書を受取っている間に土岐は自力でタクシーのドアを開けて外に出た。タクシーが走り去り、土岐の傍らに来た丸山に礼を言った。
「どうも、すいません」
「交通費を含めて、必要経費はすべてACIで負担しますので、できるだけ領収書をもらってください」
 彼が現地の総務を所掌しているとすれば、土岐の略歴は知っているものと思う。風貌からもそう見えたが、言葉遣いからも、土岐と同年輩のように見えた。
 丸山は先にフロントに向かい、土岐の部屋の鍵を要求した。
「715で、ぼくの隣の部屋です。ぼくらは一応全員7階の部屋を借りています。もしよかったら、明日の朝食、一緒にどうですか?8時まえにノックしますけど・・・」
「お願いします」
と応えながら、土岐は丸山という男の存在に安堵感を抱いた。