「それじゃ、大変だったでしょ・・・とりあえず、ホテルに案内します」
と言いながら丸山は手を差し出して、土岐のスーツケースを持とうとした。
「いや、いいですよ、大きい荷物はこれだけですから・・・」
と土岐はスーツケースを左手から右手に持ち替えた。
「両替は明日でいいですね?空港の銀行はもう閉まっているんで・・・」
と丸山が顎でしゃくりあげる方角を見ると、シャッターの降りた両替銀行の看板が見えた。丸山と二人で、地方の鄙びたスーパーマーケットのようなガラス張りの建物の外に出た。丸山はそこに停車していたタクシーの後部座席のドアを開け、
「どうぞ」
と言いながら、車の後ろに回って、黄ばんだ開襟シャツの運転手にトランクを開けるように命じた。丸山と土岐の二人で、トランクにスーツケースを納めると、丸山は助手席に座った。丸山がホテル名を告げると、タクシーは奈落のような闇に向かって吸い込まれるように走り出した。窓を開け放つと、ほのかな潮の香りが車内に飛び込んできた。耳を澄ませたが波の音は聞こえてこなかった。
「いま、現地時間で十一時五分です。まだでしたら、時計を合わせてください」
と丸山がのけぞるように後部座席の土岐を振り返りながら言った。土岐は言われたままに、腕時計の時刻を合わせた。三時間程度の時差があった。
小刻みな板ばねの振動と小山を上り下りするような硬い衝撃が車の床から継続的に伝わってきた。あたりに街路灯がなく、墨で塗りつぶしたような沈黙の湿っぽい夜景が車窓の外を墨汁のように流れていた。フロントライトに半円形に照らし出された白茶けた道路だけが、飛び込むように視界に入ってきた。
「詳しい話は明日にして、とりあえず、今夜の夕食はどうしますか?」
と丸山が穏やかな口調で聞いてきた。
「機内食で済ませたので、結構です」
「そうですか・・・明日の朝食はホテルの一階のレストランでお願いします。8時前に他のメンバーとタクシーの相乗りで事務所に行くんで、それまでに済ませておいてください」
と落ち着いた口調で丸山は指示してきた。
「分かりました」
と言いながら丸山は手を差し出して、土岐のスーツケースを持とうとした。
「いや、いいですよ、大きい荷物はこれだけですから・・・」
と土岐はスーツケースを左手から右手に持ち替えた。
「両替は明日でいいですね?空港の銀行はもう閉まっているんで・・・」
と丸山が顎でしゃくりあげる方角を見ると、シャッターの降りた両替銀行の看板が見えた。丸山と二人で、地方の鄙びたスーパーマーケットのようなガラス張りの建物の外に出た。丸山はそこに停車していたタクシーの後部座席のドアを開け、
「どうぞ」
と言いながら、車の後ろに回って、黄ばんだ開襟シャツの運転手にトランクを開けるように命じた。丸山と土岐の二人で、トランクにスーツケースを納めると、丸山は助手席に座った。丸山がホテル名を告げると、タクシーは奈落のような闇に向かって吸い込まれるように走り出した。窓を開け放つと、ほのかな潮の香りが車内に飛び込んできた。耳を澄ませたが波の音は聞こえてこなかった。
「いま、現地時間で十一時五分です。まだでしたら、時計を合わせてください」
と丸山がのけぞるように後部座席の土岐を振り返りながら言った。土岐は言われたままに、腕時計の時刻を合わせた。三時間程度の時差があった。
小刻みな板ばねの振動と小山を上り下りするような硬い衝撃が車の床から継続的に伝わってきた。あたりに街路灯がなく、墨で塗りつぶしたような沈黙の湿っぽい夜景が車窓の外を墨汁のように流れていた。フロントライトに半円形に照らし出された白茶けた道路だけが、飛び込むように視界に入ってきた。
「詳しい話は明日にして、とりあえず、今夜の夕食はどうしますか?」
と丸山が穏やかな口調で聞いてきた。
「機内食で済ませたので、結構です」
「そうですか・・・明日の朝食はホテルの一階のレストランでお願いします。8時前に他のメンバーとタクシーの相乗りで事務所に行くんで、それまでに済ませておいてください」
と落ち着いた口調で丸山は指示してきた。
「分かりました」


