フィジビリティスタディ

と土岐は申し出た。英語のヒアリングに自信がないので、ガイドブックのアドバイス通りに先に言うことにした。本来の入国目的は、ビジネスだが、そう答えると、何か聞かれそうな気がしたので、嘘の申告をした。それが功奏したのか、入国審査は無事終えた。それから、手荷物を受取り、税関に向かった。入国審査の窓口にいた男に良く似た若者が、スーツケースを開けるように要求してきた。言葉は聞き取れなかったが、身ぶりでそう言っていると判断した。スーツケースを開けると、コンパクトに詰め込んだ衣類や、洗面用具や、書類、筆記用具などをほじくり返し、お土産用のカレンダーの包装をとき、一枚一枚めくり始めた。もう一人いる税関吏の方は、簡単な審査で、入国する人々がスムースに流れていた。土岐の後ろに並んだ人々は次々と隣の列に移って行った。現地人らしい褐色の肌の男が、隣の列を無検査で通るとき、税関吏に何かを手渡しているのが見えた。タバコのパッケージのように見えた。そのとき、土岐の目の前の男が何かを欲しがっているのであろうことに気付いたが適当なものがなかった。カレンダーを欲しがっているのは何となく察知したが、砂田からの預かり物をあげるわけにはいかなかった。結局、土岐は最後まで検査を受け、スーツケースの中の荷物をすべて外に出されて、開放された。再び、荷物をスーツケースの中に要領よく詰め込むのに十数分を要した。あたりに人影はなくなっていた。
 プレハブのような安普請の税関の部屋の外に出ると、上半身裸で裸足の少年が擦り寄ってきた。土岐の手からスーツケースを奪い取ろうとした。泥棒にしては強引さがない。
(持たせてくれ)
と言いたげに哀願するような目つきをしている。土岐は立ち往生した。そこにTシャツを着たソラマメのような丸顔の東洋人がやってきた。人懐っこそうな腫れぼったい一重瞼の目尻を少し下げながらほほえみ、その少年を土岐から手の甲で遠ざけた。
「土岐さんですね?」
とその男はなごやかな口調で言う。
「ええ、・・・丸山さんですか?」
と言いながら土岐は名刺を出した。交換した名刺に、
〈丸山憲一・ACI・土木エンジニアリング主任〉
とあった。
「丸山と言います。お疲れ様です。どうでしたか、フライトは?」
と同じ台詞を幾度も言い続けているような話し方をする。
「いやあ、わたし、海外旅行は今回がはじめてなもんで・・・」