フィジビリティスタディ

 メールを読み終えて、送信者の息遣いがなんとなく感じられたような気がした。送信者が誰であるか、土岐には想像できなかった。土岐の知る限りでは、扶桑総合研究所の調査依頼を知っているのは、扶桑総合研究所の人間では、産業経済部長の鈴村、ACI担当の砂田、財務理事の鈴木、それに契約書を管理している部署の人たちとその同僚達、東亜クラブの人間では、事務局長の金井、経理担当の福原、専務理事の萩本、理事長の篠塚など、ごく少数だ。コックの中村は知らないだろう。砂田が、ACIに土岐の名前を伝えている可能性もある。ACIの関係者だとしたら、自社のプロジェクトを破綻させようとしている意図は何か。どう考えても、土岐の知る人間でこのプロジェクトの破綻で利益を得られる者が思い浮かばない。扶桑総合研究所の内部で、鈴村、砂田、鈴木と対立する人間がいるとしても土岐は知る由もない。ACI関係者となると更に分らない。東亜クラブ関係の人間はどう考えてもこのプロジェクトに対しては中立的だと思われた。
 土岐は送信者の正体については、残金の九十万円を受け取るまでは詮索しないことにした。カネの出所がどうであれ土岐はとにかく母の白内障の手術代として九十万円がほしかった。
 その日の夕方、土岐は金井から、理事長の篠塚名で海外出張の辞令をもらった。同時に、経理の福原から支度金として十万円を受け取った。

四 現地第1日目