フィジビリティスタディ

という土岐の疑問は完全に無視された。土岐は先日、東亜クラブのサロンで扶桑総合研究所の財務理事の鈴木から同じような話を聞いたことを思い出した。自由を拘束されているようで土岐には面白くなかった。
「今回は、発電所建設、変電所建設、中央管制所建設、操車場建設、狭軌から広軌へのトラックの変更、それに伴う鉄橋の補強、架線の敷設、信号系統の設置、そしてなによりも電車車両、ダイヤの作成、運転講習、プラットフォームの改修、エトセトラ、エトセトラ・・・かなりの金額のプロジェクトになるらしい。まあ、うちの研究所にころがってくるカネはたいしたことはないが、・・・ODAがらみで、商社や外務省や経産省がすでに画を描いているようだ」
と言う砂田の話し方は、ニュース原稿を棒読みしている新人アナウンサーのようだった。
「話ができあがっているプロジェクトの財務分析にどういう意味があるんですか?」
と土岐は訳ありげに、目尻に皺を寄せにやにや話す砂田に食って掛かりたくなった。
「結論が分かっていても、それなりの手続きは踏まないとね。民主主義と同じだよ。国会と同じだよ。今回うちに財務分析を依頼してきたというのは、それなりの手続きということだ。だから、あんたは一応、うちの嘱託という身分でお願いしたい」
と言いながら、砂田はテーブルの隅に置いてあった名刺カードの入ったブルーの半透明のプラスティックの箱を土岐の前に置いた。
「現地ではこの名刺でやってもらいたい。できれば、東亜クラブの名刺は持っていかないで欲しい。はっきり言えば、東亜クラブの研究員という肩書きは使わないで欲しい。このプロジェクトの財務分析は、ACIにとっては、シンクタンク業界第2位の扶桑総合研究所が請けたということに意味があるんで・・・」
 砂田の言う通り、扶桑総合研究所は業界第2位の売上規模ではある。しかし、第1位の半分程度の規模で、しかも第3位以下とはそれほど差はない。シンクタンクはどこも、証券会社を親会社とするところが多い。扶桑総合研究所だけは、独立系のシンクタンクで、親会社を持たない。収益源は扶桑グループ企業の会費収入になっている点もユニークだった。同時に毎期の経常利益が損益分岐点のあたりを上下しているという特徴も持っていた。
 土岐は自分の名前が印刷された名刺をブルーのプラスチックケースから一枚取り出し、じっくりと眺めた。