フィジビリティスタディ

「それは、そうだけど、お母さんに、ちゃんと説明してくれよ。まさか、首になったんじゃないだろうね」
 母に非はないのだが、的のはずれた会話に苛立つ自分を抑えられない。母への甘えがなせるわざだと土岐は自覚している。
「まさか。・・・こんど外国で調査をするんでパスポートが必要なんだ。それで、立川で申請するために戸籍抄本がいる」
 いま新設学科の専任教員として文部科学省に申請していることは、母にはまだ話していない。うっかり口に出そうになったことは幾度もあったが、そのつど、こらえた。岩槻は、
「大丈夫だ」
と太鼓判を押してくれているが、まだ確定はしていない。確定してから母に伝えることを楽しみにしている。母が喜んでくれることが、何よりも嬉しい。息子のわがままを許してくれた母の長年の労苦にいかばかりかでも報いることができると思うからだ。

 パスポートの発給まで数日を要した。パスポートを手にしてすぐ、扶桑総合研究所の鈴村のメールアドレスにスキャナで取り込んだパスポートのコピーを添付ファイルで送信した。翌日、チケットを受け取りに扶桑総合研究所に立ち寄ると、砂田が待ち受けていた。第3応接室でお茶なしで、簡単なブリーフィングを受けた。
「あんたの専門だから、私からアドバイスする必要もないとは思うけど、・・・滞在は一週間の予定で、最後にたぶん、現地の国鉄総裁にプレゼンテーションすることになると思う。フィージビリティ・スタディで、・・・プ、プロジェクト本体を受注したのはACIで・・・」
とすこしどもり気味に話す。せっかちのせいなのかもしれない。頭の回転が速すぎて、舌と口が付いて行かないようだった。滑舌の悪さが、一流国立大学卒業にもかかわらず、話をしていても優秀な人であるという印象をいだかせない。説明も聞き手の立場で話さないので、質問する必要がある。
「すいません。ACIってなんの略ですか?」
「エイジアン・コンサルタンツ・インターナショナルだ。知っているでしょ?」
 英語の発音が舌足らずに聞こえる。頬骨が異様に高いという口蓋の構造に原因があるのかもしれない。
「聞いたことがあるような気がします」