フィジビリティスタディ

と自嘲気味に言いながら、おかしくもないのに大声で笑う。それが鈴村の癖だった。
「で、そうすると、君は来年から、大学の先生になるのね。・・・残念だね、せっかく君を自由自在にこき使える契約書を手に入れたのに・・・じゃ、東亜クラブは来年の三月までということだな」
と鈴村は灰白色の石膏ボードの天井に丸い目を向ける。
「いや、まだわかりません。学科増設の認可が下りないかもしれないし・・・わたしだけ不適格になるかもしれないし・・・。金井さんには以前それとなく、大学教員のポストにアプライしているようなことを匂わしたんですけど、・・・いま春学期だけ非常勤講師をしている学部の新設学科とは言っていないんですが・・・きのう、来年度の給与形態を年俸制にしたいという申し出があって・・・いずれにしても、新設学科のことは、はっきりとはまだ言っていないんです」
「まあ、年俸制の件は、財団法人だから、予算案の作成で・・・ということじゃないの。だって、君に自分の持っていた非常勤講師のポストを譲ってくれたんでしょ。君の大学就職に水を差すわけがないでしょ」
「わたしも、そう思います。勤務時間中に研究論文を読む内職をしていても大目にみてくれていますし、・・・いろいろと、金井さんには便宜をはかってもらってます」
「いい人だね、金井さんは」
 そこで、土岐は鈴村に固定電話を借りて、金井に電話を掛け、来週の月曜日の午前中パスポート申請に必要な書類を用意し、窓口で申請するため、すこし遅刻することの了承を願った。その会話のやり取りを鈴村は迷惑そうな、所在無げな面持ちで聞いていた。土岐が受話器を下ろすと、
「来週早々に、日程が固まると思うんで、金井さんの方に君に対する辞令を書くように要請するから・・・まあ、一つよろしく・・・」
と不意に分厚い手で握手を求めてきた。
「いえ、こちらこそ、宜しくお願いします。今回の仕事は、わたしの業績にもなると思うので、とても感謝しています」
「いやあ、それはお互いさまだ。君の実査力はうちの人事の方でも高く評価しているんだから・・・まあ、君に就職先としてうちを選んでもらえなかったのは、残念だけど・・・」
「すいません」
「謝ることはないよ。ここでは、自由な研究なんかできないからね。大学は多少給料は安いだろうけど、・・・君の望みは自由な研究にあるんだろうから・・・」